Complete text -- "2011学園祭公開授業テキスト2"

26 October

2011学園祭公開授業テキスト2



テキスト2 台座と背景とヴィニェット:戦場ヶ原ひたぎと人格決定条件記号

 アニメ作品の中では、キャラクターの発した特定の台詞がキャラクター特性そのものを決定する要因として認められることも多い。その代表的なものが、アニメ史上かつてない屈折した人格の保有者であった『起動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイの語った「親父にだって殴られたことないのに。」という、いじけきった台詞である。同じく屈折した心性のヒーローが登場する『新世紀エヴァンゲリオン』の中から同等の著名な台詞を探すとするならば、軟弱主人公碇シンジの連発する「逃げちゃだめだ。」の病的独白や、ツンデレ美少女惣流アスカ・ラングレーの「ばかばっか、み〜んなばっか。」の奔放発言を挙げることができる。そしてまた多くのアニメ・キャラクターは、身に付けているコスチューム、取り分け制服により個人そのものの同定が可能になっていることが多い。代表的なものが『新世紀エヴァンゲリオン』に登場するアスカとレイのプラグ・スーツである。二人は同じ中学に在籍することから同等の制服姿で作品世界に描写されているが、彼等の搭乗する人型汎用兵器エヴァとのシンクロをより緊密にするために、搭乗員のシンジやアスカやレイはそれぞれ固有の戦闘用ユニフォームを備えてもいる。搭乗機との同調を確実にするための頭部に装着するインターフェースも加えて、それぞれのキャラクターの身に着ける戦闘服であるプラグ・スーツは各々色合いやデザインにおいて変化のあるものとなっており、コスチュームの色・形によって容易に人格同一性を判別することができる結果となっているのである。これは彼等の各人が単独で搭乗機エヴァ初号機から2号機までとの同調を可能にするファーストからサードまでの“チルドレン”と呼ばれる世代枠を充当していた事実と見事に符合する結果となっている。
 これは彼等と同様にエヴァに乗り込む能力を持つキャラクター達である渚カヲルや、劇場版エヴァンゲリオン“破”において後に登場した真希波・マリ・イラストリアスの場合においても当てはまる事実である。
 しかし作品世界の設定条件に従って、制服着用は個々のキャラクター同定条件には結びつかない、複数の人物によって共有される特質として示される場合もある。その具体例は『化物語』に登場する戦場ヶ原ひたぎ、羽川翼、神原駿河の三人の美少女達のフィギュア造形に確認することができる。
 この場合はそれぞれのキャラクターの体型を反映して各々のユニフォーム着用姿が特有のフォルムを形成していることが造形上の要となっている。特に胸の膨らみが及ぼす上着のシルエットの変化は無視することのできないものだろう。『ダ・カーポ』と『To Heart』以来、胸の形状を忠実に反映した制服表現はゲーム・キャラクターとフィギュア・デザインの欠かせない要素となっている。戦場ヶ原ひたぎの使用する特殊武器である文房具に代替するキャラクター補完要素として羽川翼の場合は携帯電話を保持しており、神原駿河の場合は背景としてBL本の山を従えていることも、立体造形上の工夫として見逃すことができない。さらに羽川の装着する眼鏡と神原の着用するスカートの下のスパッツ等も、キャラクター特質を表現する重要な要素となっている。
 作品中で戦場ヶ原ひたぎの着用するコスチュームは制服に限られていた訳ではないので、以下のような異なるコスチューム姿のフィギュア制作例も存在する。これらに通貫して認められる“戦場ヶ原ひたぎ性”が、重要な人格同一性概念として考察対象とされることになるのである。
  立体造形作品であるフィギュアの中から人格規定的な特徴的付加条件を探索するならば、むしろキャラクターに特有の姿勢を挙げることができるだろう。殊にフィギュア作品では、彫刻と同様に独特のポーズに造形の要がかかっているといってもよい。例えば『化物語』の極めて印象的なツンデレ・キャラクターである戦場ヶ原ひたぎの場合では、彼女が戦闘の武器として用いた文房具であるカッターナイフとホッチキスを恫喝的にかざした姿勢がこれにあたる。可動式のフィギュアである“フィグマ”においても、ひたぎのこのポーズを再現することを予定して基本的な身体造形とパーツの作成がなされているように思われる。この姿勢と小道具はねんどろいど・ヴァージョンにおいても忠実に反映されている。
 しかしこの魅力的な被害妄想/加虐趣味のツンデレ美少女キャラクターのフィギュア造形作成例として最も記憶に鮮明なのは、ひたぎが高校校舎の階段上で一瞬阿良々木暦に対する戦意を喪失し、武装解除をして制服の中に隠されていた文房具の全てを床のうえに放擲した場面を、これらの小道具の細密表現を用いて見事にフィギュア化させた制作例である。作品世界の背景を巧妙に反映させて人格決定要素の造形化を図った典型的な成功例として評価することができるのが、[グッドスマイルカンパニー]制作の“化物語 戦場ヶ原ひたぎ 完成品フィギュア”である。立体造形においては“パンチラ”という概念は存在しない。下から覗き込めばパンツの姿が視認されることが当然だからである。この武装解除シーン・フィギュアにおいてもやはり気になるのは、ひたぎのスカートの下のパンツである。その造形と表象のプレゼンテーションの詳細を確認してみると、パンツの柄にも文房具パターンが施されており、戦場ヶ原ひたぎ属性を印象的に構築していることが確認できる。


00:11:24 | antifantasy2 | | TrackBacks
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