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27 October

2011学園祭公開授業テキスト1の続き


...ここに確認した諸事実は、それぞれの概念と現象体の集合間に通底するある種の共変的特質を抽出する可能性を暗示しているようにも思われる。つまり“ねんどろいど性”という全てのキャラクターに対して適用可能な一つの汎用属性があると仮定するならば、いかなるキャラクター原形に対しても一意的に変換記述あるいは変形操作を及ぼすことにより、“ねんどろいど化”という属性賦与が一連の操作結果として一意的になされることが期待できることになる。これはミクのねんどろいど・ヴァージョンが形成されたように、他の種々のキャラクターのねんどろいど・ヴァージョンを、人的な想像力の助けを借りることなく機械的な演算処理過程として自動的に生産する手順があり得ることを示すものなのである。さらに“ミク”属性と“ねんどろいど”属性が並列的な重ね合わせが可能な同一平面上の特質であり得るならば、“ねんどろいど性”あるいは“ミク性”等の属性規定要素は様々に他の概念への変換操作を適用することさえもが可能な“変数”として適用可能な値となるので、例えば“ねんどろいど”属性とさらに別種のドール製品群である“プーリップ”属性の交換を行い、“プーリップ・ミク”の創出を導くこともできることが予測される。その概念操作の実際の適用結果が以下のプーリップ・ミク・ドールである。
 プーリップ・ミク・ドールは、特徴的なツイン・テールの頭髪と忠実なコスチュームデザイン表現において初音ミク性を導入しながら、繊維質の頭髪とグラス・アイ等によって従来のプーリップ・ドールとしての同一性を堅固に維持してもいる。
 さらにプーリップ・ドールと形態的共通要素を持つがプーリップとはまた異なるもう一つのドール製品群である“ブライス”属性と“プーリップ”属性との交換あるいはミク属性とブライス属性の重畳を行い“ミク”属性との積を求めた結果として、“初音・ブライス・ミク”を提示する手順も同様に導かれることとなるであろう。この概念操作手順の適用結果が、既に実際に3DCGソフトを活用した作例として示されているのである。下は「3DCGコミュニティサイト」(http://www.cg-site.net)に公開されているヴァーチャル・フィギュアの作例である。
 “初音・ブライス・ミク”は、立体造形作品としての物理的実体を有することのない代わりに、縦軸・横軸方向に360度の回転を行って頭髪の隙間や衣服の裏側等の内部造形までをも仮想的に描像する機能を持つCGアートである。 この“ヴァーチャル・ミク” の表象は、3DCGデザインを行うコンピュータ・アプリケーションの段階的操作の結果生成したデータ加工の集積であるので、その手順を特定し一連のアルゴリズムとして抽出することが可能なものである。ここに仮定した変換操作アルゴリズムの存在を任意の現象物と属性に対して適用することによって、変換記述/生成の原理的照応を事物の存在と属性の連続体としてある宇宙の原型的基質 の裡に求める試行を想起するならば、コンセプチュアル・アートとメタフィクションの間にある同等性あるいは相違性等の概念の深層を考察することもまた可能になるに違いない。マックスファクトリー社/グッドスマイルカンパニー社とその他各社の現出せしめた総体としての初音ミク・フィギュア作品群は、存在物とその存在を規定するであろう概念・表象との相関に関わる、宇宙の原存在における意味局相と質料局相の事象発現以前の原形質次元における共変性を暗示する、システム法則性の照射試行の企図さえ窺わせる興味深い事例提示となっているのである。この形而上的発想のさらなる応用例として、“擬人化”表現の試行の展開例を万物照応的に敷衍することにより、例えば鯨ミク、烏賊ミク、ゴキブリミク等のキャラクター概念の様々な現象化が可能なことも暗示されている。原形質的初音ミクの発現形として条件・形質を網羅したマトリクスの展開を仮想するなら、現実存在人間ミク、宇宙人ミク、未来人ミク、エスパー・ミク等全ての項目に充当する初音ミクの存在が考え得るからである。参考に、ゴキブリの美少女擬人化の作例を挙げて、初音ミクゴキブリ化の作例に対するヒントとしておくことにしよう。
 こうして古代思想にあった生物相の空と陸と海におけるそれぞれの対応のみならず、万物の照応と相関における、コレスポンデンス(correspondence)の原理がホロスコープ的相関の行列として全宇宙的に反映されることが確認されることにより、あらゆる概念間の種々の関連性あるいは同等性が密接に裏付けられた“意味のある世界”を具現する見通し図の照射を図る企図を、フィギュア造形の中に読み取ることも可能になると思われる。
 このような形而上的概念抽出試行作業において最も興味深い作例と思われるものは、ねんどろいど・シリーズの一つとして、“マンガ作品『らきすた』の登場人物である柊かがみが初音ミクのコスプレをしている”ヴァージョンである。本体が“かがみ”であり、装われた人格表象として初音ミクが選択されたことが、ねんどろいど・フィギュアとして的確に具現化され得ている事実は、反転的に“かがみのコスプレをしている初音ミクのねんどろいど・ヴァージョン”のみならず、プーリップ・ヴァージョンやブライス・ヴァージョンその他の作例創出の可能性をも示唆するものだからである。この問題を敷衍すれば“狸に化けている狐”と“狐に化けている狸”の表象化における類似と相違の検証や、“羊と名乗る狼”と“狼と目される羊”等の概念的相関における表象の類似と相違、あるいは深層的意味次元における根幹的な同一性・相当性の認証という哲学的試行さえもが効果的に提示される展望が開けてくるであろう。
 この発想をマトリクス的に補填した実例として、実際にフィギュア製品界においては、ねんどろいど版に並んで “フィグマ版ミク・コスプレ柊かがみ”も既に製品として公開されている。
 初音ミクというフィギュア作品を対象にキャラクター同定上の指標となるべき要素としてミクのヴォーカロイド制服に確認したコスチューム、青緑色の極長ツインテールに確認した髪型、小道具としてのねぎに確認した後発的アタッチメント、さらに特有の印象を喚起する姿勢・ポーズ等があったことが確認され、これらが省略あるいは他の要素とそれぞれ置換され得るものでもあったことは、例えばさらなる新ミクヴァージョンの潜勢態として任意の空白の行列を補完することにより髪の色違い、目の色違い等の変化形のみならず“ヌード・ミク”、“巨乳ミク”、“スキンヘッド・ミク”等の創出可能性があることを暗示してもいる。さらにメイコ、カイト、鏡音リン/レン、巡音ルカ達との類似性あるいは相違性が方程式化されることにより、行列的な属性配置から網羅的な仮構表象的人格性の展開を図ることが可能となり、曼荼羅としてのキャラクター展開の可能性を考えるならば、キャラクターはその本性上“一個の他と分断し得る独立した存在”である以上に、“相互浸透し合う重ね合わせ可能な相矛盾する要素の集積体”として理解すべき概念なのであるかもしれないのである。
 初音ミクを対象に行ったこれまでの考察の結果を、『新世紀エヴァンゲリオン』の中心的キャラクターであるアスカとレイを対象にして応用的検証を試みることも可能である。惣流・アスカ・ラングレーと式波・アスカ・ラングレーの間に現出したはなはだ微妙な人格同一性に関する問題点は、実はアスカ自身とレイ自身についても指摘可能な事実だったのである。

18:37:30 | antifantasy2 | | TrackBacks
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