Complete text -- "2011学園祭公開授業テキスト2の結尾"

28 October

2011学園祭公開授業テキスト2の結尾

 造形作品における人格同一性の決定条件の及ぼす展開範囲を考察するための参考例として、ロダンの代表作『地獄門』を採り上げてみることにしよう。ダンテの『地獄編』にある記載を彫刻作品として具象化したこの作品は、題名の示す通り地獄の入り口にある門そのものが造形の対象として選び取られている。しかしロダン作の彫刻作品として最も著名であると思われる『考える人』は、実はこの群像作品『地獄門』の一部なのである。果たして一個の完成した立体造形作品『地獄門』の一部として『考える人』のパーツがあるのか、あるいはこの作品の中心的存在である『考える人』の保持する彫刻作品としての同一性を投射した背景として『地獄門』の造形があると考えるべきであるのかの問いは、人格同一性概念の本質を考える上で極めて興味深い問題の所在を照射することになる。つまり『考える人』の同一性の延長性である“外延性”と『地獄門』の同一性の延長性である“内延性”の共軛的関連性をいかに捉えるかが、概念それ自体の裡にある同一性の再考察を要請する契機となるからである。
 [地獄門画像]
 例えばフィギュア作品ブラック★ロックシューターのキャラクター形成要素と思われる特徴は、目に燃える青い炎・巨大な武器“ロック・キャノン”・胸と腹部の傷跡・貧弱な胸・黒いコート・左右非対称のツインテール等であるが、これらと並んで印象的なのが圧倒的な質感を持つ市松模様の台座であった。フィギュア一般を指示する記号としてまず優先的に機能するのが台座の存在なのであるが 、黒白の市松模様の台座はブラック★ロックシューターの人格同一性を指示する特有の記号となっているのである。市松模様はフィギュアの台座のみならずアニメ『ブラック★ロックシューター』の様々のシーンにおいても背景パターンを構築していて、このキャラクターの存在特性を補完する極めて印象的な要素となっている。
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これらのフィギュアの実例の示すように、実際のフィギュア作品制作において導入されている台座は、記号として想定される台座の典型的な形象を大きく跳躍して、しばしばさらに深くキャラクターの持つ本質的な意味形成上の要素を色濃く反映したものになっているのである。
 [画像]
 フィギュア作品においてはこのような人格特性の投射する台座や背景等の周辺環境への反映は、“ヴィニェット”(vignette)という語を用いて語られることが多い。元来は書物のページを飾る背景として考案された葡萄の蔓を形象化した唐草模様風の文様を呼んでいたこの語は、フィギュア作品において背景のシーン全体を構築する人格特性補完要素として機能するジオラマ的構築物を指す概念として定着した感がある。
 [画像]
 キャンバス、額縁、台座のみならず時には名札や題名までもが一個の芸術作品と切り離すことが出来ない概念的関係性に包含されているのである。その意味においてCDのジャケットも音楽の一部であり、ピアニストの衣装も演奏の一部なのである。概念形成上のこの事実を照射してみせたのがルネ・マグリットのコンセプチュアル・アート作品『これはパイプではない』と、この作品との連動性を持った種々の関連作品群であった。全体性の宇宙の一断面としてある独個の表象の現れとして理解された“モナド”の概念と類比的に、フィギュアにおいては周囲の環境を含めた総体として一人の人格の補完物が有機的な立体造形をされているのである。以下に示すのは様々のフィギュア作品における多角的な“ヴィニェット”の応用例である。
 [画像多数]

註釈
 任天堂ゲーム『スマッシュ・ブラザーズ』は、同社制作のアクション・ゲームやロール・プレイング・ゲーム等ヴァラエティに富む種々のゲームのキャラクター達を勢揃いさせてこれらをフィギュア化し、相互に対戦ゲームを行うという趣向の興味深いメタ・ゲームである。『スマッシュ・ブラザーズ』のオープニング・シーンにおけるキャラクター総覧では台座の付加が彼等のフィギュア属性を定義づける決定的な条件として導入されている。
 [スマブラ画像]




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