Archive for 03 January 2006

03 January

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 48


 If he thought at all, but I don't believe he ever thought, it was that he and his shadow, when brought near each other, would join like drops of water, and when they did not he was appalled. He tried to stick it on with soap from the bathroom, but that also failed. A shudder passed through Peter, and he sat on the floor and cried.
 His sobs woke Wendy, and she sat up in bed. She was not alarmed to see a stranger crying on the nursery floor; she was only pleasantly interested.
 "Boy," she said courteously, "why are you crying?"
 Peter could be exceeding polite also, having learned the grand manner at fairy ceremonies, and he rose and bowed to her beautifully. She was much pleased, and bowed beautifully to him from the bed.
 "What's your name?" he asked.
 "Wendy Moira Angela Darling," she replied with some satisfaction. "What is your name?"
 "Peter Pan."
 She was already sure that he must be Peter, but it did seem a comparatively short name.
 "Is that all?"
 "Yes," he said rather sharply. He felt for the first time that it was a shortish name.
 "I'm so sorry," said Wendy Moira Angela.
 "It doesn't matter," Peter gulped.

 私にはちょっと考えられないのですが、もしもピーターが何かを考えたとしたら、それは彼の影は自分の体に近付けさえすれば、水のしずくのようにくっつくだろうということでした。でもそうではなかったので、ピーターは恐怖にかられたのです。ピーターはお風呂場から持って来た石けんを使って影をくっつけようとしました。でも、やはりだめでした。ピーターは身震いをして床の上に座り込み、泣き出しました。
 ピーターの泣き声を聞いて、ウェンディは目を醒ましました。ウェンディはベッドの上で体を起こしました。ウェンディは、知らない人が子供部屋の床の上で泣いているのを見ても、恐がりはしませんでした。ただ、どうしたのだろう、と気になったのです。
 「ねえ、あなた。」ウェンディは丁寧に呼び掛けました。「どうして泣いているの。」
 ピーターも、とっても礼儀正しく振舞うことはできました。妖精の儀式をする時の上品な作法を身に付けていたのです。ピーターは立ち上がって、美しい身のこなしでお辞儀をしました。ウェンディはとても素敵だと思いました。ウェンディもベッドの上からしとやかにお辞儀を返しました。
 「君の名前は何ていうんだい?」ピーターが聞きました。
 「ウェンディ・モイラ・アンジェラ・ダーリングよ。」ウェンディはちょっと誇らし気に答えました。「あなたのお名前は?」
 「ピーター・パン」
 ウェンディはもう、この子がピーターに違いないと確信していました。でも、どちらかと言うと、これは短い名前のような気がしました。
 「それだけ?」
 「それだけだよ。」ピーターはちょっときつい口調で答えました。ピーターは生まれて始めて、自分の名前が短か過ぎる名前のようだと感じました。
 「ごめんなさい。」ウェンディ・モイラ・アンジェラは言いました。
 「いいんだよ。」ピーターは息を呑むようにして言いました。

 ピーターは「考える」ことができないという。ピーターはその代わりに“make-believe”(ごっこ遊び、振りをすること)の天才であり、他者の動作を見事に真似てのける。これはピーターとキャプテン・フックとその影との関係を考える上で、大変興味深い事実である。ピーターはフックの体験した人格の分裂という悲劇を「考える」ことなく真似ることにより、外郭の構造性をその内部において複写し、不毛な再生産を行っているのかもしれない。彼の感じた恐怖も驚きも、本当は実体の無い模倣に過ぎないものであるのかもしれない。

用語メモ
 grand manner:“荘重な儀礼的振る舞い”である。美術や音楽等の様式の一つの名称ともなっている。“荘重体”、“崇高調”がそれである。




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kuroda@wayo.ac.jp



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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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