Archive for 04 January 2006

04 January

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 49


 She asked where he lived.
 "Second to the right," said Peter, "and then straight on till morning."
 "What a funny address!"
 Peter had a sinking. For the first time he felt that perhaps it was a funny address.
 "No, it isn't," he said.
 "I mean," Wendy said nicely, remembering that she was hostess, "is that what they put on the letters?"
 He wished she had not mentioned letters.
 "Don't get any letters," he said contemptuously.
 "But your mother gets letters?"
 "Don't have a mother," he said. Not only had he no mother, but he had not the slightest desire to have one. He thought them very over-rated persons. Wendy, however, felt at once that she was in the presence of a tragedy.
 "O Peter, no wonder you were crying," she said, and got out of bed and ran to him.
 "I wasn't crying about mothers," he said rather indignantly. "I was crying because I can't get my shadow to stick on. Besides, I wasn't crying."
 "It has come off?"
 "Yes."
 Then Wendy saw the shadow on the floor, looking so draggled, and she was frightfully sorry for Peter. "How awful!" she said, but she could not help smiling when she saw that he had been trying to stick it on with soap. How exactly like a boy!

 ウェンディはピーターの住いはどこか尋ねました。
 「右に行って二番目の角をまっすぐ、朝になるまで進んだところさ。」ピーターは答えました。
 「変わった住所ね。」
 ピーターは何だか気が沈んできました。始めてピーターは、自分のいるところがおかしな住所だと思えてきました。
 「別に変じゃないよ。」
 「私が言おうとしたんのは、」ウェンディは感じよく言いました。だってお客さんのお相手をしているんですもの。「お手紙を差し上げる時にはそう書くの?」
 ピーターは、ウェンディがお手紙のことなど言わなければよかったのに、と思いました。
 「手紙なんてもらったことは、ない。」ピーターは馬鹿にしたような口調で言いました。
 「でも、お母さんのところには手紙がくるでしょう。」
 「お母さんなんて、いない。」ピーターは気を悪くして答えました。ピーターは、お母さんがいなかったどころか、お母さんなんて欲しいという気持ちは全くありませんでした。ピーターはお母さんというものは、過大評価され過ぎているようだと思いました。けれどもウェンディは、この子がとっても気の毒な子だと感じたのです。
 「ピーター、それであなたは泣いていたのね。」こう言うとウェンディはベッドから飛び出して、ピーターのところに駆け寄りました。
 「僕はお母さんなんかのことで泣いていたんじゃない。」ピーターは、ちょっとむっとした顔をして言いました。「僕は、影がうまくくっつかないので泣いていたんだ。それに、僕は泣いたりしてなかった。」
 「影がとれちゃったの?」
 「うん。」
 それからウェンディは、床の上の影に目を向けました。その影は、よれよれになっていました。ウェンディは、ピーターのことがどうしようもなく可哀想になりました。「なんてひどいことでしょう!」でもウェンディは、ピーターがこの影を石けんを使ってくっつけようとしていたのが分かって、思わず微笑まずにはいられませんでした。本当に男の子らしいことね!

 “右に行って二番目の角をまっすぐ、朝になるまで進んだところ”というのが、ピーターが答えた彼の住まう場所である。しかしこれは口からでまかせのでたらめであることが、後に分かる。彼の答え方と彼の答えた言葉の内容の双方が、ピーターという存在の謎を語る巧みな傍証となっている。
 ピーターが徹底して母親を拒否するのは、女性達が等しくピーターに対して無条件の愛着を示すこととは、見事に対照的である。極大と極小が結びついて連関をなすような、アンビバレントな属性を体現するピーターには、宇宙全体の存立公式を形成する究極の存在原理が暗示されているようだ。
 “泣いていた”と自ら語った直後にその事実を否定するピーターである。自己の発言と行動の矛盾を全く自覚することのないピーターの精神は幼児そのものであり、これが彼の重要な存在原理となっている。そのピーターが影の分離を経験するに至ったのは、実世界の模倣行為を通して行った戯画化であり、彼の体験のすべてが遊戯的行動に過ぎないことを示している。

用語メモ
 funny:“変”なことだが、“おかしい”、“変てこ”といった語感である。それに対して“strange”は、“見なれない”、“奇妙な”といった語感がある。




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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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