Archive for 11 January 2006

11 January

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 56


 "They are the children who fall out of their perambulators when the nurse is looking the other way. If they are not claimed in seven days they are sent far away to the Neverland to defray expenses. I'm captain."
 "What fun it must be!"
 "Yes," said cunning Peter, "but we are rather lonely. You see we have no female companionship."
 "Are none of the others girls?"
 "Oh, no; girls, you know, are much too clever to fall out of their prams."
 This flattered Wendy immensely. "I think," she said, "it is perfectly lovely the way you talk about girls; John there just despises us."
 For reply Peter rose and kicked John out of bed, blankets and all; one kick. This seemed to Wendy rather forward for a first meeting, and she told him with spirit that he was not captain in her house. However, John continued to sleep so placidly on the floor that she allowed him to remain there. "And I know you meant to be kind," she said, relenting, "so you may give me a kiss."
 For the moment she had forgotten his ignorance about kisses. "I thought you would want it back," he said a little bitterly, and offered to return her the thimble.

 「ロスト・ボーイズっていうのは、子守りがよそを向いている時に乳母車から落っこちてしまった子供達なんだ。もしも一週間のうちに見つけてくれる人がいなかったら、経費の負担のためにネバーランドに送り込まれることになっているんだ。僕がその親分さ。」
 「とても面白そうね。」
 「そりゃそうさ。」狡猾なピーターは言いました。「でも僕らはちょっと寂しい時もある。だってお仲間に女の子がいないんだからね。」
 「女の子は一人もいないの?」
 「いないんだ。だって、女の子は乳母車から落っこちてしまうには利口過ぎるからね。」
 これを聞いてウェンディはご機嫌になってしまいました。「あなたが女の子のことを話す仕方は、とっても素敵だと思うわ。あそこにいるジョンなんてね、私達女の子を馬鹿にするのよ。」
 ピーターは、答える代わりに立ち上がって、ジョンをベッドの下に蹴落としました。毛布もみんな一緒に、一蹴りで、です。ウェンディには、初対面の相手にこれは、ちょっと図々しい振る舞いのように思えました。そこでウェンディは決然とした態度で、自分の家で差し出がましい振る舞いはしないで欲しい、とピーターに言いました。けれどもジョンが床の上でとても安らかに眠り続けているので、ウェンディはピーターを館から退去させるまでもないと判断しました。「悪気でしたことではなかったのですからね。」ウェンディは寛大に言いました。「キスをしてもよろしいですわよ。」
 この時ウェンディは、ピーターがキスのことを知らないのを忘れてしまっていたのでした。「すぐに返せって言うと思ってたよ。」ピーターはちょっと苦々し気に言って、指貫を差し出しました。

 伝承にあるフェアリーランドと平行して、この物語独自の世界“ネバーランド”が言及されている。ネバーランドの構成要素となるべき住民は妖精ではなく、乳母車から落っこちた(幼くして命を失った)“ロストボーイズ”という新規の奇想による存在である。これは19世紀末のロンドンにおける各種伝染病の流行と、乳幼児の死亡率の高さを反映していると思われる。
 ウェンディは社交界の流儀を用いて、ピーターと心理的な駆け引きを行っている。女の子なのである。

用語メモ
 forward:出しゃばる、出過ぎた。無遠慮な態度のことである。
 spirit:気迫、気概。




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