Archive for 20 January 2006

20 January

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 65


 Certainly they did not pretend to be sleepy, they were sleepy; and that was a danger, for the moment they popped off, down they fell. The awful thing was that Peter thought this funny.
 "There he goes again!" he would cry gleefully, as Michael suddenly dropped like a stone.
 "Save him, save him!" cried Wendy, looking with horror at the cruel sea far below. Eventually Peter would dive through the air, and catch Michael just before he could strike the sea, and it was lovely the way he did it; but he always waited till the last moment, and you felt it was his cleverness that interested him and not the saving of human life. Also he was fond of variety, and the sport that engrossed him one moment would suddenly cease to engage him, so there was always the possibility that the next time you fell he would let you go.
 He could sleep in the air without falling, by merely lying on his back and floating, but this was, partly at least, because he was so light that if you got behind him and blew he went faster.

 確かに、子供達は眠い振りをしていたのではなく、本当に眠かったのでした。そしてこれは、大変危険なことでした。ふっと眠りに落ちた瞬間、すとんと落ちてしまうのです。恐ろしいのは、ピーターがこのことを面白がっていたことです。
 「そら、また落ちてくぞ。」マイケルが突然石のように墜落を始めると、ピーターは楽しそうに叫ぶのでした。
 「助けてやって。マイケルを助けて。」ウェンディは、ずっと真下に見える恐ろしい海を見ながら、叫びました。結局、ピーターは急降下をして、マイケルが海面に激突する直前に抱き止めるのでした。その様は見物でした。けれどもピーターは、いつもぎりぎりの瞬間まで待つのです。だからどうしても、ピーターの興味を引き付けているのは、人の命を助けることではなく、自分の技の巧みさの方なのだという気がしてしまうのでした。その上、ピーターはひどく気が変わりやすいのです。一度夢中になったことでも、突然彼の興味を引くことがなくなってしまうのです。だから次に誰かが墜落した時には、ピーターが助けてくれないという恐れがいつもあったのでした。
 ピーターは、墜落することなく飛びながら眠ることができました。仰向けになって、ただ浮いているだけです。でもこれは、一つには彼の体があまりにも軽かったためなのです。だからピーターの後ろに回って息を吹きかけたら、ピーターは簡単に吹き飛ばされてしまうのでした。

 ピーターは、一般の人間には到底考えられない様々な超越的能力を持ってはいるものの、彼の関心は常に自分自身に対してのみあり、人間一般を救い導くことなどに対してあるのではない。自然と同化することによって得られる感動と喜びは、ピーターのうちに確かに存在するものではあるが、彼の体現するあるがままの自然の示す実相は、人間原理に対してあまりにも冷徹な様相を示すこともある。その上、ピーターの能力の源泉となっているものは、ここに語られているピーターの体の身軽さという例の場合のように、同時に彼の存在の無との近縁性を暗示する、はなはだ無気味なものでもある。

用語メモ
 sport:“気晴らし”、“遊び”のことである。ピーターには、生きるためにせねばならない切実なことは一切ないので、全てが彼にとっては遊戯やゲームのような“sport”に過ぎないのである。




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