Archive for 22 January 2006

22 January

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 67


 Indeed they were constantly bumping. They could now fly strongly, though they still kicked far too much; but if they saw a cloud in front of them, the more they tried to avoid it, the more certainly did they bump into it. If Nana had been with them, she would have had a bandage round Michael's forehead by this time.
 Peter was not with them for the moment, and they felt rather lonely up there by themselves. He could go so much faster than they that he would suddenly shoot out of sight, to have some adventure in which they had no share. He would come down laughing over something fearfully funny he had been saying to a star, but he had already forgotten what it was, or he would come up with mermaid scales still sticking to him, and yet not be able to say for certain what had been happening. It was really rather irritating to children who had never seen a mermaid.
 "And if he forgets them so quickly," Wendy argued, "how can we expect that he will go on remembering us?"
 Indeed, sometimes when he returned he did not remember them, at least not well. Wendy was sure of it. She saw recognition come into his eyes as he was about to pass them the time of day and go on; once even she had to call him by name.
 "I'm Wendy," she said agitatedly.
 He was very sorry. "I say, Wendy," he whispered to her, "always if you see me forgetting you, just keep on saying `I'm Wendy,' and then I'll remember."

 本当に、ぶつかってばかりだったのです。子供達は、今はもっとしっかりと飛ぶことができました。まだ足をばたつかせ過ぎるきらいはありましたが。でも前方に雲があるのが分かり、雲を避けようとすればする程、決まったようにその雲に激突してしまうのでした。もしもナナが一緒にいたならば、今頃はきっとマイケルの額に包帯が巻き付けられていたことでしょう。
 ピーターは、今は子供達のもとを離れていました。ピーターがいなくなると、ちょっと不安な気持ちになるのでした。ピーターはみんなよりずっと早く飛ぶことができるので、突然目の届かないところまで飛んでいってしまい、一人で別の冒険をしているのです。ピーターが戻って来る時には、自分が星に語ったとんでもなく愉快なことを思い出しながら笑っていたりします。でもそれがどんなことだったか、もう忘れてしまっているのです。人魚の鱗を体につけたまま戻って来ることもあります。でもどんなことをしていたのか、はっきりと覚えてはいないのです。これは、まだ人魚を見たことのない子供達には、かなり癪に障ることでした。
 「ピーターがこんな風に何でもすぐに忘れてしまうのなら、私達のことをずっと覚えていてもらえると思う?」ウェンディは指摘しました。
 確かに、ピーターが戻って来た時、みんなのことをよく覚えていなかったこともありました。ウェンディは、ピーターが自分達のことを忘れてしまっているのが良く分かりました。ピーターが挨拶をして彼等の脇を通り過ぎて行こうとする時、彼等のことをあわてて思い出すのが見て取れたのです。ウェンディは、名前を呼んでピーターを引き止めさえもしました。
 「私は、ウェンディよ。」狼狽しながらウェンディは言いました。
 ピーターは、あっけらかんと謝るのでした。「ね、ウェンディ。僕が君のことを忘れかけていると思ったら、いつも『私はウェンディよ。』って言ってくれないかな。そうしたら、思い出すから。」ピーターはこう言うのでした。

 ピーターの、一切物事を覚えておくことができないという驚くべき特質が明らかにされている。従って反省や後悔や慚愧の念とも全く無縁である。この少年の存在原理の核となるべき部分である。

用語メモ
 記憶(memory):ピーターは実質を持たない観念だけの存在なので、常に夢想と願望によって形成された主観の世界に生きている。そしてそこで得られた体験さえも、彼が一貫した記憶を欠くことにより、既成の事実としての意味を失ってしまうのである。





「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中












00:00:00 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks