Archive for 13 January 2006

13 January

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 58


 Peter was so glad that he rose from the floor, where they had been sitting, and hurried to the window.
 "Where are you going?" she cried with misgiving.
 "To tell the other boys."
 "Don't go Peter," she entreated, "I know such lots of stories."
 Those were her precise words, so there can be no denying that it was she who first tempted him.
 He came back, and there was a greedy look in his eyes now which ought to have alarmed her, but did not.
 "Oh, the stories I could tell to the boys!" she cried, and then Peter gripped her and began to draw her toward the window.
 "Let me go!" she ordered him.
 "Wendy, do come with me and tell the other boys."
 Of course she was very pleased to be asked, but she said, "Oh dear, I can't. Think of mammy! Besides, I can't fly."
 "I'll teach you."
 "Oh, how lovely to fly."
 "I'll teach you how to jump on the wind's back, and then away we go."
 "Oo!" she exclaimed rapturously.
 "Wendy, Wendy, when you are sleeping in your silly bed you might be flying about with me saying funny things to the stars."
 "Oo!"
 "And, Wendy, there are mermaids."
 "Mermaids! With tails?"
 "Such long tails."
 "Oh," cried Wendy, "to see a mermaid!"

 これを聞いて喜んだピーターは、座っていた床の上から立ち上がって、窓のところに駆け寄りました。
 「どこに行くの?」心配になってウェンディは言いました。
 「他の子達に教えてやるんだ。」
 「行かないで、ピーター。」ウェンディは頼みました。お話なら、いっぱい知ってるわよ。」
 ウェンディは、確かにこの通りに言ったのでした。ですから、最初に誘惑の手を差し伸べたのがウェンディであるのは、否定しようのないことです。
 ピーターは戻ってきました。目にはあやし気な光が漂っていました。ですからウェンディは気をつけなくてはならなかったのです。でもウェンディは気が付きませんでした。
 「お話なら、他の子達にもしてあげられるのにね。」ウェンディは叫びました。その時ピーターはウェンディの体に手を回して、窓のところに引っ張っていこうとしました。
 「放してちょうだい。」ウェンディは強い口調で言いました。
 「ウェンディ、僕と一緒に来て、みんなにお話してやってよ。」
 勿論ウェンディは、これを聞いてとても嬉しくなりました。でもウェンディは言いました。「残念だけど、駄目よ。お母さんが駄目って言うわ。それに、空を飛ぶこともできないし。」
 「飛び方なら教えてあげる。」
 「空を飛べるなんて素敵ね。」
 「風の背中に飛び乗ればいいんだ。そしたら、あっという間さ。」
 「うーん。」ウェンディは感極まってうなりました。
 「ねえウェンディ、このつまらないベッドで寝ている替わりに、僕と一緒に飛び回って、星達に話しかけることもできるんだよ。」
 「うーん。」
 「ウェンディ、それからね、人魚もいるんだ。」
 「人魚?魚のしっぽのついた?」
 「とっても長い尾びれさ。」
 「うーん、人魚も見られるのね。」ウェンディは叫びました。

 ピーターは常識的な社会生活を送っている子供達を未知の世界へと誘う誘惑者として振舞う。しかし彼等のやり取りの中で、最初に誘惑の言葉を投げかけたのは、疑いなくウェンディの方だったのである。

用語メモ
 windユs back(風の背中):“風”は擬人化されて人の姿をした“風の神”のイメージで語られている。ギリシア神話以来の習慣で、様々な抽象概念が人間と同様の姿形をした神として描写の対象とされるのである。




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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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