Archive for 14 January 2006

14 January

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 59


 He had become frightfully cunning. "Wendy," he said, "how we should all respect you."
 She was wriggling her body in distress. It was quite as if she were trying to remain on the nursery floor.
 But he had no pity for her.
 "Wendy," he said, the sly one, "you could tuck us in at night."
 "Oo!"
 "None of us has ever been tucked in at night."
 "Oo," and her arms went out to him.
 "And you could darn our clothes, and make pockets for us. None of us has any pockets."
 How could she resist. "Of course it's awfully fascinating!" she cried. "Peter, would you teach John and Michael to fly too?"
 "If you like," he said indifferently, and she ran to John and Michael and shook them. "Wake up," she cried, "Peter Pan has come and he is to teach us to fly."
 John rubbed his eyes. "Then I shall get up," he said. Of course he was on the floor already. "Hallo," he said, "I am up!"
 Michael was up by this time also, looking as sharp as a knife with six blades and a saw, but Peter suddenly signed silence. Their faces assumed the awful craftiness of children listening for sounds from the grown-up world. All was as still as salt. Then everything was right. No, stop! Everything was wrong. Nana, who had been barking distressfully all the evening, was quiet now. It was her silence they had heard.

 ピーターは恐ろしい程ずる賢くなっていました。「ウェンディ、僕達みんな君のことをとても大事にするよ。」
 ウェンディは苦悩のあまり、身をよじらせていました。まるで子供部屋から出ていくつもりはないとでも言わんばかりです。
 けれどもピーターは情け容赦もありません。
 「ウェンディ、夜には僕達をベッドに寝かし付けることもできるんだよ。」巧妙に持ちかけました。
 「うーん」
 「僕達誰もこれまでベッドに寝かし付けてもらったことなんて、なかったな。」
 「うーん。」ウェンディの両手はピーターの方に差し伸べられました。
 それから僕らの衣類を繕って、服にポケットを付けてくれるんだ。誰もポケットのついた服なんて着ている子はいないな。」
 どうして逆らうことなどできたでしょう?「本当にとても素敵だと思うわ。」ウェンディは叫びました。「ピーター、ジョンとマイケルにも空の飛び方を教えてくれる?」
 「そうして欲しければね。」ピーターは気がなさそうに言いました。ウェンディはジョンとマイケルのところに行って二人を揺り起こしました。「起きるのよ。ピーター・パンがやってきて、空の飛び方を教えてくれるのよ。」
 ジョンは目をこすりました。「じゃあ、起きなきゃ。」ジョンはこう言うと、もう床の上に降り立っていました。「ほら、起きたよ。」
 「マイケルも、もう起きていました。6本刃とのこぎり付きのナイフみたいにしゃっきりしています。でも突然ピーターは、静かにするように身振りで示しました。子供達の顔は大人の世界の物音に耳を傾ける時の驚くべき狡猾さの表情を浮かべていました。すべてがしんと静まり返っていました。それなら、何もかも大丈夫です。ちょっと、待て!何もかも、まずい。晩の間ずっと悲し気に吠え立てていたナナが、今は静かになっています。子供達が聞きつけたのは、ナナの静けさでした。

 ウェンディはピーターの誘惑に抗う素振りをしめしながら、本心は別のところにある。ウェンディの本音を見透かして作者は容赦無い。作者は、子供たちが本質的にハートレスな存在であることを良く知っているのである。
 “子供達がナナの沈黙を聞きつけた”この矛盾した表現は、修辞上の意図して語られた不可能事である。ピーターという存在も、ネバーランドという存在も、これと同等の含意を持つ非在性の存在物なのである。

用語メモ
 cunning, sly, crafty:どの語も皆、“狡猾な”、“策略に長けた”という意味である。イリアッドの叙事詩“ユリシーズ”の主人公である、計略の巧みな武将ユリシーズに冠せられたエピセットが、“crafty”であった。




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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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