Archive for 25 January 2006

25 January

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 70


 Of course the Neverland had been make-believe in those days, but it was real now, and there were no night-lights, and it was getting darker every moment, and where was Nana?
 They had been flying apart, but they huddled close to Peter now. His careless manner had gone at last, his eyes were sparkling, and a tingle went through them every time they touched his body. They were now over the fearsome island, flying so low that sometimes a tree grazed their feet. Nothing horrid was visible in the air, yet their progress had become slow and laboured, exactly as if they were pushing their way through hostile forces. Sometimes they hung in the air until Peter had beaten on it with his fists.
 "They don't want us to land," he explained.
 "Who are they?" Wendy whispered, shuddering.
 But he could not or would not say. Tinker Bell had been asleep on his shoulder, but now he wakened her and sent her on in front.
 Sometimes he poised himself in the air, listening intently, with his hand to his ear, and again he would stare down with eyes so bright that they seemed to bore two holes to earth. Having done these things, he went on again.

 勿論、この頃はまだ、ネバーランドは“ごっこ遊び”でした。でも今は、すっかり本物になっていました。ベッドの脇の灯りも、もうありません。あたりは、暗くなっていくばかりです。ナナはどこに行ってしまったのでしょう。
 これまでは、みんなは、別々に離れて飛んでいました。でも今は、ぴったりピーターに寄り添って飛んでいます。ピーターの余裕たっぷりだった様子も、今は変わっています。目はきらきらと輝き、ピーターの体に触れる度毎に、ぞくっとするような刺激が感じられるのです。もう、恐ろし気な島の真上に来ていました。あまりにも低く飛ぶものですから、時々、木の梢が足にかすめる時もあります。空に何か恐ろしい姿をしたものが現れた訳でもありません。けれども、先に飛び続けるのが辛くなり、速度はゆっくりになってきました。反発する力に抗いながら進んでいるような感じです。時には宙に止まって、ピーターが何かを拳で打ち据えるのを、待っていなければならないこともありました。
 「あいつらは、僕らが上陸するのが嫌なんだ。」ピーターは説明しました。
 「あいつらって、誰のこと?」ウェンディは、身震いしながら、ささやくように尋ねました。
 けれどもピーターは、答えるつもりがないのか、あるいは答えることができないのか、返事をしないのでした。ティンカー・ベルは、ピーターの肩の上で眠りに落ちていました。でもピーターは、ティンカー・ベルを起こして、先に行かせました。
 時々、ピーターは宙に浮かんだままで、片手を耳にあてて、じっと何かに聞き入りました。それからまた、あまりにも鋭い目でじっと下を見下ろすものですから、地面に二つの穴が出来てしまうのではないかと思われました。そうしてまた、ピーターは先を続けました。

 “ごっこ遊び”としての夢の一部であったネバー・ランドが、確かな実体感を備えた一つの世界として、身近に迫って来ようとしている。距離をおいて眺めるばかりであった願望の世界が実体化した時、その夢は悪夢とならざるを得ない。現実と夢の混淆を夢想する安直なロマン主義的理想に対する辛辣なアンチ・テーゼがここに掲げられている。

用語メモ
 hostile force:ここで“敵意のある力”と語られているものは、“反発する力”、すなわち“repulsion”と呼び変えることが可能なものであり、“引き付ける力”、すなわち“attraction”と対照的に機能する、世界のある種の存在原理をあらわすものとして理解されるかもしれない。




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kuroda@wayo.ac.jp



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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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