Archive for 29 January 2006

29 January

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 74


 "If only one of us had a pocket," Peter said, "we could carry her in it." However, they had set off in such a hurry that there was not a pocket between the four of them.
 He had a happy idea. John's hat!
 Tink agreed to travel by hat if it was carried in the hand. John carried it, though she had hoped to be carried by Peter. Presently Wendy took the hat, because John said it struck against his knee as he flew; and this, as we shall see, led to mischief, for Tinker Bell hated to be under an obligation to Wendy.
 In the black topper the light was completely hidden, and they flew on in silence. It was the stillest silence they had ever known, broken once by a distant lapping, which Peter explained was the wild beasts drinking at the ford, and again by a rasping sound that might have been the branches of trees rubbing together, but he said it was the redskins sharpening their knives.
 Even these noises ceased. To Michael the loneliness was dreadful. "If only something would make a sound!" he cried.
 As if in answer to his request, the air was rent by the most tremendous crash he had ever heard. The pirates had fired Long Tom at them.
 The roar of it echoed through the mountains, and the echoes seemed to cry savagely, "Where are they, where are they, where are they?"
 Thus sharply did the terrified three learn the difference between an island of make-believe and the same island come true.

 「誰かが小物袋さえ持っていればな。」ピーターが言いました。「ティンクを中に入れて行けるんだが。」でも、子供達はみんな大急ぎで家を飛び出して来たので、4人のうちの誰も小物袋なんて持っていませんでした。
 そこでピーターは、いいことを思いつきました。ジョンの帽子です!
 ティンクは、その帽子を手に持ってくれるのなら、中に入ってもいいと言いました。ジョンが持つことになりました。ティンクはとしては、ピーターに持ってもらう方が良かったのですが。そしてその後、ウェンディが帽子を持つことになりました。ジョンが、飛んでいる時に帽子がひざに当たると言うからです。そしてこれが、後で分かるように、面倒を引き起こすことになりました。何故なら、ティンカー・ベルは、ウェンディなんかの世話になるのは嫌だったからです。
 黒いシルク・ハットの中に入ると、ティンカー・ベルの光もすっかり見えなくなりました。そしてみんなは静かに飛んで行きました。その静けさは、子供達がこれまでに経験したことのないものでした。時々遠くの方から、ぴちゃぴちゃ水の音が聞こえてきました。ピーターは、これは川の浅瀬で獣達が水を飲んでいるのだと言いました。また時々、木の枝がこすれ合うような音が聞こえてきました。でもピーターは、これはインディアン達がナイフを研いでいる音だと言うのでした。
 こんな音さえもすっかり聞こえなくなりました。マイケルには、恐ろしいばかりの静けさでした。「何かの音が聞こえてくれさえすればいいのに。」マイケルは叫びました。
 マイケルの望みに答えるように、これまで耳にしたことのないような、途轍もない音が空気を引き裂きました。海賊達が大砲を発射したのです。
 砲声は山々に木霊しました。そしてその音は、荒々しく「奴らはどこだ、奴らはどこだ、奴らはどこだ。」と響くように思えました。
 こうして、恐怖にかられた3人の子供達は、ごっこ遊びの島とそれが本物になった時の違いを、痛切に思い知らされることになったのです。

 「後で分かるように」と語られている通り、作者は物語の未来を予見しながら語りの作業を進めている。このメタフィクションの機構は、様々な様態をとってこの作品中に現れてくることとなる。
 『ピーターとウェンディ』は、現実となった夢を描いたフィクションである。実体化した夢に対する安易な幻想を排した厳しいスタンスのあり方が、この作品がアンチ・ファンタシーであることを良く示しているが、一方他のあらゆる要素が、総体としてこの作品を紛れも無くファンタシーとしていることに対しては、全く疑念の余地は無い。

用語メモ
 pocket:小物を入れる小さな袋のことである。服についているポケットもこれに含まれる。
 topper:top hatともいう。シルク・ハットのことである。




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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中






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