Archive for 08 January 2006

08 January

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 53


 Wendy was quite surprised, but interested; and she indicated in the charming drawing-room manner, by a touch on her night-gown, that he could sit nearer her.
 "It was because I heard father and mother," he explained in a low voice, "talking about what I was to be when I became a man." He was extraordinarily agitated now. "I don't want ever to be a man," he said with passion. "I want always to be a little boy and to have fun. So I ran away to Kensington Gardens and lived a long long time among the fairies."
 She gave him a look of the most intense admiration, and he thought it was because he had run away, but it was really because he knew fairies. Wendy had lived such a home life that to know fairies struck her as quite delightful. She poured out questions about them, to his surprise, for they were rather a nuisance to him, getting in his way and so on, and indeed he sometimes had to give them a hiding. Still, he liked them on the whole, and he told her about the beginning of fairies.
 "You see, Wendy, when the first baby laughed for the first time, its laugh broke into a thousand pieces, and they all went skipping about, and that was the beginning of fairies."
 Tedious talk this, but being a stay-at-home she liked it.

 ウェンディはとてもびっくりしました。でも、もっと聞きたいと思いました。そこでウェンディは、宮廷風の優雅な作法に従って、夜着の裾に手を触れて、もっと近くに来て腰掛けるようにピーターにうながしました。
 「どうしてかって言うとね、」ピーターは声を落として語り始めました。「お父さんとお母さんが、僕が大きくなったら何になればいいかを話していたからなんだ。」この部分にさしかかると、ピーターはひどく取り乱していました。「僕は、大人になんかなるつもりはないんだ。」激しい口調でピーターは続けました。「僕はずっと幼い子供のままでいて、楽しく暮らしていたいんだ。だから僕は、ケンジントン公園に逃げ出して来て、ずっと長い間妖精達と一緒に暮らしてきたんだ。」
 ウェンディは、この上ない尊敬の眼差しをピーターの方に向けました。ピーターは、それは自分が生まれた家から逃げ出したからだと思ったのですが、実はウェンディは、ピーターが妖精達を知っているというのに感心したのです。ウェンディは、ずっと平凡な家庭生活を送ってきました。だから妖精を知っているなんて、とても素敵なことのように思えたのです。ウェンディは、妖精達について沢山の質問を浴びせました。これはピーターには意外なことでした。何故なら妖精達は、ピーターにとってはむしろやっかいな存在だったからです。ピーターのすることに手を出して、邪魔をするようなこともありました。時には、お仕置きをしてやらねばならないこともあったのです。でも、全体としては、ピーターは妖精のことを嫌いではありませんでした。そしてピーターは、ウェンディに妖精達の誕生について語りました。
 「あのね、ウェンディ。赤ちゃんが産まれて始めて笑い声をあげると、その声が小さくはじけて転がり散っていくんだ。それが妖精の始まりなんだ。」
 「これはピーターにとっては退屈な話でした。でも、家に閉じこもりがちな生活をしているウェンディには、とても面白い話でした。」

 ケンジントン公園で妖精達と一緒に暮らしている、というのはピーターの本性を物語るもう一つの重要な情報である。しかし一般の市民生活を超出した妖精に対するウェンディの期待感が、ロマン主義の特質を表しているとするならば、ピーターが妖精に対して示すむしろそっけない態度は、この作品の持つ醒めたアンチファンタシー的特質を反映していると考えることもできる。
 ピーターは口からでまかせの妖精起源説を語っている。しかしながら伝承に縛られない彼の妖精に対する新機軸の解釈は、20世紀初め頃の神智学等が展開した、現代における神秘主義的思潮の復活と呼応するものでもある。

用語メモ
 hiding:=spanking、罰のためのおしおきである。“隠れる”の“hide”ではなく、“生皮”の意味の“hide”からきている。




「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
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http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中















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