Archive for 09 January 2006

09 January

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 54


 "And so," he went on good-naturedly, "there ought to be one fairy for every boy and girl."
 "Ought to be? Isn't there?"
 "No. You see children know such a lot now, they soon don't believe in fairies, and every time a child says, `I don't believe in fairies,' there is a fairy somewhere that falls down dead."
 Really, he thought they had now talked enough about fairies, and it struck him that Tinker Bell was keeping very quiet. "I can't think where she has gone to," he said, rising, and he called Tink by name. Wendy's heart went flutter with a sudden thrill.
 "Peter," she cried, clutching him, "you don't mean to tell me that there is a fairy in this room!"
 "She was here just now," he said a little impatiently. "You don't hear her, do you?" and they both listened.
 "The only sound I hear," said Wendy, "is like a tinkle of bells."
 "Well, that's Tink, that's the fairy language. I think I hear her too."
 The sound came from the chest of drawers, and Peter made a merry face. No one could ever look quite so merry as Peter, and the loveliest of gurgles was his laugh. He had his first laugh still.
 "Wendy," he whispered gleefully, "I do believe I shut her up in the drawer!"

 「だからね、」ピーターは親切に話を続けました。「どの子にも妖精が一人、いるはずなんだ。」
 「はずって?いなかったりもするの?」
 「いないこともある。最近では、子供達は何でも知ってしまってるだろう。子供達はすぐに妖精のことを信じなくなる。そして子供が『妖精なんているものか。』と言うたびごとに、妖精が命を失ってしまうんだ。」
 ピーターは、もう充分に妖精の話はしたと思いました。そしてティンカー・ベルがとても静かにしていることに気が付きました。「ティンクはどこにいっちゃったんだろう?」ピーターは立ち上がりながら言いました。そしてティンクの名を呼びました。ウェンディは、胸がどきどきしてきました。
 「ピーター!」ウェンディは、ピーターの体にしがみつくと言いました。「まさか、この部屋に妖精がいるって言うのじゃないでしょうね。」
 「さっきまでいたんだけどね。」ピーターはちょっと苛立たしそうに言いました。「声が聞こえないかな?」二人は耳をすませました。
 「私に聞こえるのは、鈴の鳴るような音だけだわ。」ウェンディが言いました。
 「それがティンクだよ。妖精はそんな声を出すんだ。僕にも聞こえてきた。」
 その音は、タンスの中から聞こえてくるのでした。ピーターはうれしそうな顔になりました。ピーターのようにうれしそうな顔をすることは、誰にもできません。ピーターの笑い声は、何よりも楽し気なものです。ピーターは、まだ生まれたばかりの赤ちゃんの時の笑い声を無くしてはいませんでした。
 「ウェンディ、僕はティンクをタンスの中に閉じ込めちゃってたんだ。」

 人間一人一人の存在と本質的な関わりを持つものとして、妖精の存在を解釈する一つの仮説が示されている。個人の想念の中における確信の喪失が、実際に妖精の死をもたらすというのである。現代の思想的閉塞状況のもたらした、憂慮すべき全体性からの断絶を超克するべき世界解式を具現化した、独特の思想的意義を担わされた妖精像が提示されている。

用語メモ
 merry:陽気で、楽しいことである。悲しみを一切知らない、いかにも屈託のないピーターの特質をあらわす言葉である。反対の意味の言葉はmelancholy(憂鬱)であろう。




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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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