Archive for 23 November 2004

23 November

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 54


As for the crocodile, the ape, and the sad dog, they faded steadily before the marvelous phantoms until they were only shadows themselves, even to the unicorn's undeceived eyes.

 鰐と猿と侘びしげな犬は、見事な幻影の前でだんだんとその姿を薄れさせていきました。そして最後には、ユニコーンの、あやかしの魔法には惑わされない筈の目にさえも、実体の彼等の方がただの影のように思われてしまうのでした。

 実体が影となり存在性を希薄化させ、ふくれあがった幻影がよりいっそう存在感を増す。本体とその影の間には互いを補い合って一つの事象を完成する、という相補的な関係性のみあって、実は主客の方向軸という関連性はないのかもしれない。ファンタシーの仮定する魔法の原理のメカニズムであるが、本作品において語られている「魔法」という概念の意味する力の範囲は、この原理とはまた微妙にずれるものとして設定されているようだ。

用語メモ
 相補性:一対の存在物が、互いを補い合って一つの完成形を構築する、という原理機構の許にあることを見つけ出すことが究極の目的となる。人間存在、あるいは世界そのものを完結したものとは見ずに、不完全な、だからこそ未知の可能性を秘めたものとして新たに捉え直すことにより、すべてに対する意味性賦与の試みが可能になる。魔法の原理とファンタシーの思想的特質として、既存の価値観の転覆と、流動性な存在属性の柔軟な受容をあげることができる。

和洋女子大学英文学科
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詳細
http://www.wayo.ac.jp/topics/boshuu.html
作家島田雅彦氏による講演・パフォーマンス <自由人の祈り>

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(『最後のユニコーン』注釈テキスト "Annotated Last Unicorn"、論文「『最後のユニコーン』と“漫画性”」、「『最後のユニコーン』のフック的アンチ・ヒーローと神格化された無知」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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