Archive for 07 November 2004

07 November

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 38


"The little dogs, Tray, Blanche, Sue, they bark at me,"

「トレイにブランチにスー、子犬達が私に吠えかかる。」

 シェイクスピア、「リア王」第3幕6場からの引用であろう。気の狂ったリア王が、その場にはいない犬たちのことを語る哀切な場面で有名な科白、“The little dogs and all, Tray, Blanch, and Sweet-heart, see, they bark at me.”とほぼ同様である。
 狂気を生業とする者、狂気を演じている者、狂気に陥ることになる者、心を盲いている者、実際に盲いてしまうことになる者、それぞれの条件を満たす者たちが一同に会して、この場にいない者達を被告にして裁判を行う、この劇でも殊に印象的な場面である。精神の錯乱と世界の狂気性を物語るこの戯曲を、理性を忘れ去ったような蝶の言葉が暗示するのは興味深い。

用語メモ
 「リア王」(King Lear):シェイクスピアの傑作として名高い「リア王」であるが、この劇を見事な観念の造形作品として成立させる機構が、登場人物の意識と彼等の置かれているシチュエーションのもたらす印象を極めて人工的な操作を加えて配列することにより、意味と感覚を素材として調合した音楽的抽象作品であるかのように形成することにあるという事実は、意外と理解されていないことのようである。
 『最後のユニコーン』の作者ビーグルがこのファンタシー作品において結果的に獲得している効果も、実はこの名高い劇作品の到達しているものと同等の機構に属するものなのである。


公開授業のお知らせ
和洋女子大学学園祭
11月6日:”「最後のユニコーン」と魔法”
11月7日:”「最後のユニコーン」とsorrow”
両日共、午後1時より開催

公開授業の詳細:和洋女子大学TOPICS http://www.wayo.ac.jp/topics/eibun.html

メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

(『最後のユニコーン』と『ピーターとウェンディ』を対象にしたファンタシー論『アンチファンタシーというファンタシー』、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"、『ハリー・ポッター』研究サンプル等を公開中)




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