Archive for 08 November 2004

08 November

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 39


It seemed to her that she had heard autumn beginning to shake the beech trees the very moment that she stepped out into the road.

ユニコーンには道に足を踏み入れた瞬間、秋風がビーチの木を震わせ始めたように思えました。

永遠性の存在であるユニコーンが、その基本属性を反転させ、時間性の支配を受け始めるという図式的機構がここに明確に示されている。作品世界を支配する条件設定の論理的展開として極めて観念的に執り行われる位相変転の操作は、ユニコーンという存在と彼女の探求の旅への出立という行動の場合に留まらず、他の様々な存在やそれらの行動の綾なす関係性においても、複層的に折り畳んで摘要されていくことになるのである。

用語メモ
 ビーチ(beech): 英国の詩によく歌われる木である。つやつやとした青い木の葉が好まれ、ナイチンゲールがこの木に止まってさえずるとされる。「梅にうぐいす」と同様に、「ビーチにナイチンゲール」はいかにも詩的興趣に満ちた取り合わせとされている。
 植物や動物、鉱石や食物等、この世界に存在する事物の一つ一つに対する素朴な愛着とこだわりは、功利的な目的性を排した、あるがままの世界の背後に潜む深遠さと崇高さに対する崇敬の念として、ファンタシーを思想的に支える心的機能を暗示するものである。

メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

(『最後のユニコーン』ノート、論文「『最後のユニコーン』と“漫画性”」、「『最後のユニコーン』のフック的アンチ・ヒーローと神格化された無知」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"、『ハリー・ポッター』研究サンプル等を公開中)




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