Archive for April 2005

30 April

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 212


Then, swaying and sick and beaten, he closed his eyes and let his hopelessness march through him, until something woke somewhere that had wakened in him once before. He cried aloud, for fear and joy.

そして目眩と吐き気と打ちのめされたような気持ちの中で、彼は目を閉じて自分の無力感に身を委ねました。すると以前に一度だけ彼の内部で目覚めたことのある何物かが、どこかでまた目を醒ましました。シュメンドリックは恐怖と歓喜のために大きな声で叫びました。

 絶望が最大に達した時が希望の始まりとなる。対照的な一方の力の極大がもう一方の力の極小と繋がっている、とするのは典型的な影の論理の図式である。このシステム理論がキーワード“magic”と直接に関連するものとなる。魔法は外からやってくるものであるとともに、内部から目覚めるものでもあるからだ。“正反対の一致”(coincidentia oppositorum)というある種の超自然的原理法則が、論理矛盾と現象世界における非在性という要素をも包含して、魔法の精緻な機構を支配しているのである。

用語メモ
 絶望と希望(“despoir”and “espoir”):恐怖の極限がそのまま歓喜となり、絶望の極致が新たなる希望と連接しているとするのが、アメリカにおけるロマン主義思想の紹介者であり、実生活においての厳密な実践者でもあった、エドガー・アラン・ポーという人物の作品と生活の双方を支配していた、奇妙な確信であったように思われる。


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作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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29 April

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 211


Schmendrick regarded her in silence, staring as hard as though his green eyes were beginning the search for his magic in Molly Grue's eyes.

シュメンドリックは黙ってじっとモリーを見つめました。彼の緑の目が、モリー・グルーの目の中から、自分の魔法の力を探し出そうとしているかのようでした。

 シュメンドリックが改めてモリーの存在意義を認め、モリーを通して本来自分の中にある筈の本物の力を探し出そうとしている。シュメンドリックのものである魔法の力が、モリーの目の中に見出されるというのである。このような理解を成り立たせる世界の原理機構と無数の事物の間相互に有る微妙な関係性が、このお話の立脚点となっている特有の思想的前提を物語るものである。

用語メモ
 空、空隙(void):シュメンドリックは魔法の行使に関する技術的知識も、魔法を成立させる世界の原理機構に対する理解も十分に持っている筈である。おそらく彼に欠けているものは、あらゆる状況を臨機応変に自然に迎え入れるのに不可欠な、ゆとりの要素である知識的・心理的な“無”として機能する、ある種の空白部分なのだろう。


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28 April

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 210


"You have magic," she said. She heard her own voice, as deep and clear as a sibyl's. "Maybe you can't find it, but it's there. You called up Robin Hood, and there is no Robin Hood, but he came, and he was real. And that is magic. You have all the power you need, if you dare to look for it."

「あんたには、魔法の力がある。」モリーは言いました。彼女はそう言う自分の声が、巫女の言葉のように深く透き通っているのが分りました。「あんたは自分では分らないかもしれないけど、ちゃんとその力を持っているんだよ。ロビン・フッドを呼び出すことだってできたじゃないか。ロビン・フッドなんてものは本当には存在しない。でもやって来た。そして本物だった。あれこそ魔法の力だったよ。あんたには必要な力はみんな備わっている。その気になって探しさえすればいいんだ。」

 彼女には自分の声が、“神の言葉を伝える巫女のように力強くはっきりと語るのが聞こえた”というのである。モリーという人物の外側から、彼女にこれらの言葉を語らしめる力が訪れてきているのである。丁度魔法の力が「やって来たり、行ってしまったり」するのと同様である。あるいは古代ギリシアで、ミューズの神に祈りを捧げた詩人の許にインスピレーションがもたらされたのと同様の仕組みである。魔法は、魔法使いに対してだけでなく、様々の存在物の許に折々の機会を選んで訪れることができる。キーワード“magic”と結果的に関連する。

用語メモ
 巫女(sibyl):神の声を伝える媒介となる役目を果たす女が巫女である。魔法の原理に基づく世界観においては、自我や個人として保有する能力は余り重要視されることはない。高次元の世界の全体性からもたらされる崇高な力の媒体として選ばれるのは、むしろ自意識や目的性の希薄な、言わば透明性の精神なのである。


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27 April

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 209


To transform a unicorn--anyone who could do that could juggle the seasons and shuffle years like playing cards. And I have no more power than you have; less, for you can touch her, and I cannot.

ユニコーンを変身させるなんて、そんなことが出来るものは、季節だって時間だって、トランプの札を切るみたいに捌くことができてしまうだろう。それに俺には、お前が持っているほどの力もないんだ。お前はユニコーンに触れることができるのに、俺にはできない。

 シュメンドリックがモリーに対して、始めて自分が彼女に劣っている部分があることを認めた場面である。ファンタシーの主題としては、自我の未知の要素が存在することを受け入れ、影(分身)との合体を行う用意が整いつつあることを暗示する。

用語メモ
 影(shadow):多くは何らかの理由のために自我の統一状態が保たれることができなくなり、本体から分離して超自然的存在属性を獲得してしまったもののことをこの言葉で呼ぶが、世界に存在する個別の存在物同士が、全体性の視点から角度を変えて見れば、互いに各々の影としての本来の存在属性を担って、現象世界に曼陀羅のような綾をなして顕現しているとも看做すことができる。


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26 April

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 208


Schmendrick said, "I know what to do. If I could, I'd change her into some other creature, some beast too humble for the Bull to be concerned with. But only a great magician, a wizard like Nikos, who was my teacher, would have that kind of power. "

シュメンドリックは言いました。「何をすれば良いかは分っている。俺に出来さえすれば、彼女を牡牛が気に留めるだけの価値もない、他の生き物に変えてやるんだ。だが俺の師匠であったニコスのような偉大な魔法使いでもなければ、そんな力などある筈もない。」

 レッド・ブルに抗いようもなく追いつめられるばかりのユニコーンを見て、シュメンドリックはつぶやく。今の状況を救う唯一の手立ては、かつて彼の師匠が行ったようにユニコーンを他の生き物に変身させることだけだというのである。

用語メモ
 humble:卑しい、劣った。反対語は“noble”(高貴な、優れた)である。この物語の中でユニコーンが担っている存在論的意義性を補完する情報となっている。

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