Archive for June 2005

30 June

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 273


"I would not waste time in foolishness if I were you. As to your first question, no cat out of its first fur can ever be deceived by appearances. Unlike human beings, who enjoy them.”

「僕があんただったら、こんな馬鹿なことを尋ねて時間を無駄にしたりはしないね。最初の質問に対する答えはね。一度産毛が抜け替わった猫なら、もう見かけなんかに騙されたりはしない。騙されて喜んでいる人間たちとは、違うのさ。」

 猫の持つ独特の存在属性がこれから明らかにされていくことになる。ユニコーンやレッド・ブルにおいて示されていた新機軸の存在属性と並んで、猫について常識の修正条件として示される存在性向は、作者の動物に対する愛好をあらわすものとして、また別な角度からも興味深いものがある。

用語メモ
 "no cat...can ever be ceceived":“猫は人間のように表向きの姿にたぶらかされることはない。”猫もユニコーンやハーピーと同等の“old”な属性を主張し得る、特別な神話的存在に属する生き物であることを暗示しているかのようである。


メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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29 June

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 272


"Could you always talk?" she asked the cat. "Or was it the sight of the Lady Amalthea that gave you speech?"
The cat licked a front paw reflectively. "It was the sight of her that made me feel like talking," he said at length, "and let us leave it at that. So that is a unicorn. She is very beautiful."

 「あんたは、前から話せたの?」モリーは猫に聞きました。「それともアマルシア姫の姿を見たから話せるようになったの?」
 猫は考え深げに前足を舐めました。「話す気になったのは、お姫さまの姿を見たからだね。」ようやく猫は言いました。「そんなことはどうでもいい。やっぱりあの方はユニコーンだったんだ。とても美しい。」

 何故か猫は人間の言葉を話すことができるし、一目でアマルシア姫の正体がユニコーンであることを見分けることもできる。ユニコーンがそうであったように、このお話の中において猫の保持する独特の存在属性が確かに窺われる。

用語メモ
 “made me feel like talking”:“僕を話す気にさせた”。“話す”ことは素晴らしい奇跡である。他者の意識を揺さぶりかけ、世界の実相を音声に凝縮させ、世界を流れる音楽を奏でることでもある。そして万物が秘めているこの力を解放させるのが、魔法の力である。


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・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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28 June

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 271


The cat said, "He is going out. He goes out every sundown to hunt for the strange white beast that escaped him. You know that perfectly well. Don't be stupid."

猫が言いました。「牡牛が出かけるところなんだよ。あいつは、夜毎逃げ出した白い不思議な獣を狩り立てにでかけるのさ。そんなこと、良く分かっている筈だろう。驚くなんて馬鹿みたいだ。」

 いきなり揺れ動く城に慌てたモリーに対して、突然猫が言葉を発するのである。お伽話における通例のように、主人公に声をかけ、貴重な情報を伝えてくれる動物達は、人間を見守っていて常に好意的な助言を用意してくれる恩恵に満ちた自然を具現化したものである。かつて妖精達(fairy)の果たしていた存在論的意義がこれであった。このお話の中には妖精自身は登場することはないが、妖精に代替するものたちは、確かに存在する。

用語メモ
 talking animals:お伽話においては、動物たちどころか、草木やその他の自然物の全てが人と言葉を交わし、会話を行うのがごく当たり前であった。このような霊的交感を可能にするのは、近代の自然科学が採用することとなった世界観とは全く別個の原理に基づく統合的宇宙観なのである。そこでは存在と様態の根本が、理性の論証過程とは異質の図式において解釈されていたはずなのである。


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27 June

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 270


He said, "The Red Bull is a demon, and its reckoning for attending Haggard will one day be Haggard himself." Another man interrupted him, insisting that the clearest evidence showed that the Bull was King Haggard's enchanted slave, and would be until it broke the bewitchment that held it and destroyed its former lord.

衛兵の一人が言いました。「レッド・ブルの正体は悪魔なんだ。そしてこいつがハガード王に助力するその代償は、最後にはハガード王自身の魂を奪うことになるのだ。」すると別の衛兵が横から口をはさんで言いました。「レッド・ブルは魔法にかけられたためにハガード王の奴隷となっているのであって、いつかはこの魔法を打ち破り、主人であるハガード王を殺してしまうことになるのは、どこから見ても間違いの無いことだ。」

 レッド・ブルに関する記述は、常に複数の可能性を並行的になぞった発散的情報として語られる。殊に象徴的な悪漢像として登場するハガード王との関係性において、その不定性の属性が顕著に示されている。ハガード王とレッド・ブルの関係とは、人格の分裂から生成する影の主題の変奏例として、本作品のファンタシー文学としての位相、つまりアンチ・ファンタシーとしての特質を決定するものである。第3章においてシュメンドリックの語っていたレッド・ブルに関する情報と対比すべきであろう。

用語メモ
 reckoning(代償):悪魔との契約を題材にした様々の伝説の主題において顕著であったように、ある一つの行為には必ずそれに相応する結果、あるいは条件が付帯するのである。助力を得ることに対する報酬の場合のみにとどまらず、宇宙全体を支配する密接で堅固な関係性の存在が、この言葉に巧みに反映されてもいる。

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26 June

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 269


"There is the true reason that we stay in Haggard's employ. He does not wish us to leave, and what King Haggard wishes or does not wish is the only concern of the Red Bull. We are Haggard's minions, but we are the Red Bull's prisoners."

「我々がハガード王に仕えている本当の訳というのは、これです。ハガード王が我々を手放そうとはしないからです。そしてハガード王が望むこと、あるいは望まないことこそ、レッド・ブルの唯一の関心事なのです。我々はハガード王の奴隷として使われる獄吏です。そしてまたレッド・ブルの囚人なのです。」

 ハガード王の城のたった4人だけの衛兵達が語る言葉である。飽くまでも曖昧なハガード王とレッド・ブルとの間の関係について語られた、正確な証言となる稀な例の一つである。そしてまた彼等自身の実相についても、二律背反する内容における証言であるからこそ、やはり正確な記述となっているのである。

用語メモ
 minion:“お気に入り”、“寵児”、“奴隷”等の複雑な意味を持つ言葉である。“minions of the law”ならば“看守、獄吏”の意味となるので、次の“prisoner”と興味深い対照をなすことになる。


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