Archive for 10 January 2005

10 January

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 102


“As for the Red Bull, I know less than I have heard, for I have heard too many tales and each argues with another. The Bull is real, the Bull is a ghost, the Bull is Haggard himself when the sun goes down. The Bull was in the land before Haggard, or it came with him, and saves him. It protects him from raids and revolutions, and saves him the expense of arming his men. It keeps him a prisoner in his own castle. It is the devil, to whom Haggard has sold his soul. It is the thing he sold his soul to possess. The Bull belongs to Haggard. Haggard belongs to the Bull. ”

「レッド・ブルはと言えば、耳にしたことよりも分かっていることの方がより少ないのです。何故ならばあまりにも様々の逸話が伝えられ、その各々が矛盾するものであるからです。牡牛は実在する、牡牛は幽霊だ、牡牛の正体はハガード王自身で、日が落ちた時の彼の正体だ、という具合です。牡牛はハガード王の来る以前からこの国にいた、という説もあれば、ハガード王と共にこの国に来た、という説もあるし、ハガード王のもとに後に牡牛がやってきた、という説もある。牡牛は略奪や反逆からハガード王を守っていて、兵隊達を武装する経費を省いてくれている、という者もあれば、城の本当の主人は牡牛で、ハガード王は捕われの身に過ぎない、という者もいる。牡牛の正体は悪魔で、ハガ−ド王はそいつに魂を売ったのだ、という意見もあるし、この牡牛を手に入れる代償としてハガード王は魂を売ったのだ、という意見もある。牡牛を支配しているのがハガード王だ、とも言われれば、牡牛の方がハガード王を支配している、とも言われている。

ここに語られているレッド・ブルの正体の曖昧さは、ファンタシー文学の主題的基盤となる“影”という題材の20世紀的な変奏の例として、この作品のantifantasy的傾向と密接な関係を持つものであると思われる。10章においてハガード王の城の衛兵達の語る情報と比較すると興味深い。

用語メモ
 曖昧(ambiguity):上の記述において明らかなように、情報の正確さが十分でないことを原因とする“不明瞭さ”などとは明白に異なり、本作品世界においては相反する矛盾した内容の記述があたかも分岐的に並列して語られていくという特殊な構造性が確認されるのである。


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(『最後のユニコーン』注釈テキスト "Annotated Last Unicorn"、論文「『最後のユニコーン』と“漫画性”」、「『最後のユニコーン』のフック的アンチ・ヒーローと神格化された無知」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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