Archive for 22 January 2005

22 January

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 114


He was too busy brooding over the ending of his hat trick to notice much else. Too much english, he suggested to himself. Overcompensation.

彼は他のことに気を留めるには、帽子にかけた魔法の結末について考えるのにあまりにも頭が一杯だったのでした。ちょっと捻りがきつすぎたか?それとも“補償過剰”だったか?

 山賊のジャック・ジングリーに捕まって、馬の背に無理矢理乗せられた不自由な状態にありながら、シュメンドリックの頭を占めているのは、一瞬だけ抱くことのできた期待に反して、結局思いどおりに魔法の技を振るうことがどうしても適わなかった先程の出来事の際の、自分の魔法の技術の分析とそして自分自身の心理状態の客観的把握なのである。彼が己の失敗の原因として先ず考えたのが "overcompensation"、(補償過剰)という分析心理学の述語であった。
 魔法の行使の能力と精神的疾患の治癒とを同一線上に結び付けるこの感覚は、ユングの行ったパラケルススの唱えた宇宙論と錬金術理論に対する大胆な再評価との関連を念頭に置いて振り返ってみれば、魔法の原理機構を美学と宇宙論的神秘思想に重ね合わせて首尾一貫した記述手法の許に描き出す本作品における特徴的な傾向としてはなはだ興味深いものである。

用語メモ
 overcompensation(補償過剰): 「補償」(compensation)とは、フロイトとユングの後に続く深層心理学者アドラー(Adler、1879−1937)の唱えた理論に基づく言葉である。アドラーは「劣等感」という心理に注目し、この劣等感を優越感に変えようとする心的機能として、「補償」という精神作用についての研究を行った。つまり「補償」とは、自分の致命的な弱点を補完するために他の望ましい特性を強調することを指すものであり、劣等感に由来する心理的緊張を、他の側面で優れることによって解消しようとする、意識的に制御可能な精神機能のことなのである。


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(『最後のユニコーン』注釈テキスト "Annotated Last Unicorn"、論文「『最後のユニコーン』と“漫画性”」、「『最後のユニコーン』のフック的アンチ・ヒーローと神格化された無知」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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