Archive for 06 January 2005

06 January

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 98


“The poor old woman," he whispered at last. The unicorn said nothing, and Schmendrick raised his head and stared at her in a strange way. A gray morning rain was beginning to fall, and she shone through it like a dolphin. "No," she said answering his eyes. “I can never regret."

「婆さん、死んじまった。」シュメンドリックはようやくかすれ声で言いました。ユニコーンが何も答えないので、シュメンドリックは顔を上げて、訝しげにユニコーンの方に目を向けました。まだ薄暗い中で雨が降り始めていて、ユニコーンの姿はイルカのように光って見えました。「いいえ。」ユニコーンは魔法使いの目に応えて言いました。「私には後悔することはできません。」

 ユニコーンの“永遠性”という属性を理解することができなければ、訳の分らない場面である。シュメンドリックがあれほど嫌っていたにもかかわらず、魔女の死に心を乱しているのに対して、ユニコーンは起こってしまったことに対して無駄に気持ちを痛めるような感覚を持たない。情動に流されて固定観念に凝り固まってしまう“人間的な”感覚が、時間性の支配から自由なユニコーンによって“regret”と呼ばれている。

用語メモ
 “regret”と“sorrow”:“old”と並んで、この作品独特の感覚で用いられる言葉として上の“regret”がある。この言葉の意味を補完するのが、この直後に出てくる“sorrow”という言葉である。あまりにも“人間的な”歪んだ感覚でしか物事を理解することのできない我々に、全く異なった判断基準の存在を暗示するものとしてこれらの言葉が機能することになる。


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(『最後のユニコーン』注釈テキスト "Annotated Last Unicorn"、論文「『最後のユニコーン』と“漫画性”」、「『最後のユニコーン』のフック的アンチ・ヒーローと神格化された無知」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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