Archive for 01 October 2005

01 October

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 366


The unicorn lowered her head one last time and hurled herself at the Red Bull. If he had been either true flesh or a windy ghost, the blow would have burst him like rotten fruit. But he turned away unnoticing, and walked slowly into the sea.


ユニコーンは最後にもう一度頭を低く下げ、赤い牡牛に飛び掛かりました。もしも牡牛が本当の肉体を持っていたか、あるいは朧げな霊のようなものでさえあったなら、ユニコーンの一撃は牡牛を腐った果物のように粉砕したことでしょう。けれども牡牛はその一撃に気付きさえもせずに、ゆっくりと海の中に足を踏み入れていったのでした。

 ユニコーン達の姿の描写において行われていた場合と正確に対称をなして、レッド・ブルの姿が再び現象世界的実体性を持たない、徹底的に観念上のものとして記述されていることがここでも確認される。“real”な存在はmortalな人間が概念として把握する“true flesh”でも、あるいは“windy ghost”でさえもあり得ないものだというのである。

用語メモ
 排中律:“総てのものが〜であるか、あるいは〜でないかのいずれかである。”という普遍的真実を語る論理学上の法則である。この法則性を基にして、これらの選択肢のどちらか一方を根拠ある立論により否定することによって、他方を真実として確証することができるとされる。しかし上の引用は排中律を形成するであろう選択肢の双方を否定するものとなっている。



お願い
“『最後のユニコーン』読解メモ”はこの後の第14章をもって終了となります。
これまで解説されていた部分についての疑問、言及されていなかった箇所についての質問等がありましたら、お知らせ下さい。総集編で補完したいと思います。その他リクエスト等ありましたらご遠慮なくお寄せ下さい。


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論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(14)“意味消失による意味性賦与の試み──『最後のユニコーン』における矛盾撞着と曖昧性”を新規公開中


作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス



大学祭英文学科公開授業のお知らせ

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』の世界

11月5日(土)、11月6日(日)の両日開催

The Last Unicornー映画化の最新情報

 1982年のアニメーション版は日本では未公開だが、欧米では熱狂的ファンも多い。“アメリカ”の主題歌が今また話題になっている。
 2005年公開予定で製作進行中の実写版は、今世界中のホームページで注目を浴びている。

1 ユニコーンとは

伝説に語り伝えられたユニコーン:プリニウスの「博物誌」の記述

Pliny describes the unicorn as being very ferocious, similar in the rest of its body to a horse, with the head of a deer, the feet of an elephant, the tail of a bear; a deep, bellowing voice, and a single black horn, two cubits in length

プリニウスによれば、ユニコーンはとても獰猛で、身体そのものは馬と同様だが、頭は鹿のようで、足は象のようで、尾は熊のようで、唸る声はとても重々しく、2キュービットの長さの黒い角を持っているということだ。

伝説上のユニコーンとは様々の動物の組み合わせ、“キメラ”(chimera)にも似た存在であった。

 クリュニー美術館所蔵のタペストリー:「貴婦人とユニコーン」
 中世的“アレゴリー”の世界の中のユニコーン像

2 『最後のユニコーン』のユニコーンは、これらとは全く異なる存在属性を与えられている。

ユニコーンを語る独特の描写と比喩の用法
She was very old, though she did not know it, and she was no longer the careless color of sea foam, but rather the color of snow falling on a moonlit night.

彼女は、自分では知らなかったけれど、とても年とっていた。そして彼女はもう海の泡のような無邪気な白い色ではなく、月の照らす晩に降る雪のような白い色をしていた。


But her eyes were still clear and unwearied, and she still moved like a shadow on the sea.

けれどもユニコーンの目はまだ透き通っていて疲れを知らず、彼女は
海の上の影のように身体を運びました。

She did not look anything like a horned horse, as unicorns are often pictured, being smaller and cloven-hoofed, and possessing that oldest, wildest grace that horses have never had, that deer have only in a shy, thin imitation and goats in dancing mockery.

彼女はユニコーンがしばしば絵に描かれていたように、角のついた馬のような姿はしていなかった。体は馬よりも小さく、蹄は二つに割れていて、馬が決して所有したことのない、そして鹿はただ薄っぺらなおずおずとした物真似でしか所有したことがなく、そして山羊はおどけて踊るような形でしか持っていない“オールド”で“ワイルド”な優美さを備えていた。


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