Archive for 06 October 2005

06 October

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 371


But King Haggard, who was quite real, fell down through the wreckage of his disenchanted castle like a knife dropped through clouds. Molly heard him laugh once, as though he had expected it. Very little ever surprised King Haggard.

けれどもハガード王だけは間違い無く本物だったので、雲の中を突っ切って落ちるナイフのように、魔法の解けた城の残骸の中を落ちていきました。モリーは、彼があたかもこの事態を待ち受けていたかのように、満足そうに笑う声さえ耳にしました。ハガード王を驚かすことのできるものなど、滅多にありはしなかったのです。

 ハガード王の存在属性に関して、彼もまたユニコーンやハーピーと同様に“real”な存在であることが語られている。ユニコーンとレッド・ブルとハガード王の三者の持つ“real”という属性の位相の異なりを比較検証することによって、ハガード王によって暗示される本作品世界特有の存在論的意義性と、“old”という概念の保持する関連の秘密が解明されることになるだろう。

用語メモ
 disenchanted:“enchant”で“魔法をかける”なので、“enchanted”なら “魔法をかけられた”、“disenchanted”ならば“魔法の解けた”の意となる。魔女の魔法によって建設されたハガード王の城は、ユニコーンの解放と共にその魔力が解け、瓦解するのである。



お願い
 “『最後のユニコーン』読解メモ”は、この後の第14章をもって終了となります。
 これまで解説されていた部分についての疑問、あるいは言及されていなかった箇所についての質問等がありましたら、どうかお知らせ下さい。総集編で補完したいと思います。その他リクエスト等ありましたらご遠慮なくお寄せ下さい。


メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(14)“意味消失による意味性賦与の試み──『最後のユニコーン』における矛盾撞着と曖昧性”を新規公開中


作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス



大学祭英文学科公開授業のお知らせ

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』の世界

11月5日(土)、11月6日(日)の両日開催

The Last Unicornー映画化の最新情報

 1982年のアニメーション版は日本では未公開だが、欧米では熱狂的ファンも多い。“アメリカ”の主題歌が今また話題になっている。
 2005年公開予定で製作進行中の実写版は、今世界中のホームページで注目を浴びている。

1 ユニコーンとは

伝説に語り伝えられたユニコーン:プリニウスの「博物誌」の記述

Pliny describes the unicorn as being very ferocious, similar in the rest of its body to a horse, with the head of a deer, the feet of an elephant, the tail of a bear; a deep, bellowing voice, and a single black horn, two cubits in length

プリニウスによれば、ユニコーンはとても獰猛で、身体そのものは馬と同様だが、頭は鹿のようで、足は象のようで、尾は熊のようで、唸る声はとても重々しく、2キュービットの長さの黒い角を持っているということだ。

伝説上のユニコーンとは様々の動物の組み合わせ、“キメラ”(chimera)にも似た存在であった。

 クリュニー美術館所蔵のタペストリー:「貴婦人とユニコーン」
 中世的“アレゴリー”の世界の中のユニコーン像

2 『最後のユニコーン』のユニコーンは、これらとは全く異なる存在属性を与えられている。

ユニコーンを語る独特の描写と比喩の用法
She was very old, though she did not know it, and she was no longer the careless color of sea foam, but rather the color of snow falling on a moonlit night.

彼女は、自分では知らなかったけれど、とても年とっていた。そして彼女はもう海の泡のような無邪気な白い色ではなく、月の照らす晩に降る雪のような白い色をしていた。


But her eyes were still clear and unwearied, and she still moved like a shadow on the sea.

けれどもユニコーンの目はまだ透き通っていて疲れを知らず、彼女は
海の上の影のように身体を運びました。


She did not look anything like a horned horse, as unicorns are often pictured, being smaller and cloven-hoofed, and possessing that oldest, wildest grace that horses have never had, that deer have only in a shy, thin imitation and goats in dancing mockery.

彼女はユニコーンがしばしば絵に描かれていたように、角のついた馬のような姿はしていなかった。体は馬よりも小さく、蹄は二つに割れていて、馬が決して所有したことのない、そして鹿はただ薄っぺらなおずおずとした物真似でしか所有したことがなく、そして山羊はおどけて踊るような形でしか持っていない“オールド”で“ワイルド”な優美さを備えていた。



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