Archive for 08 October 2005

08 October

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 373


For all that her quest had ended joyously, there was weariness in the way she held herself, and a sadness in her beauty that Molly had never seen.

ユニコーンの探求の冒険が目的を叶えて終了したのにも関わらず、ユニコーンの様子には満足できないものがあるようでした。そしてモリーにはこれまで目にしたことのなかった悲しみの表情さえ、彼女の美しい姿に窺えるのでした。

 レッド・ブルとの対決と仲間達の解放というロマンス的筋立てのみが、このお話の基軸を支えていたのではない。むしろこれらの冒険を通じてこのユニコーンが被った、永遠性の存在としては極めて例外的な変化の内実こそが、アンチ・ファンタシーとしてのこのお話の、中心的主題であったのである。

用語メモ
 喜劇(comedy):“お話”という一つの公理系を完結に導き、総ての問題を解消したと判断せしめるためのある種の評価基準が、その小宇宙の潜勢的システム原理として主張されることとなる。それは仮構世界の質と性向に従って、勝利であったり、結婚であったり、心の中のささやかな満足であったりと様々である。『最後のユニコーン』が果たして“ハッピー・エンド”と呼び得るものを語っており、総ての問題の解決が導かれて終結を迎える“喜劇”となるべき条件を備えているか否かについては、議論の余地があるだろう。エピローグとしての最終章が、この点についての考察を行う場として提供されているのである。


お願い
 “『最後のユニコーン』読解メモ”は、この後の第14章をもって終了となります。
 これまで解説されていた部分についての疑問、あるいは言及されていなかった箇所についての質問等がありましたら、どうかお知らせ下さい。総集編で補完したいと思います。その他リクエスト等ありましたらご遠慮なくお寄せ下さい。


メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(14)“意味消失による意味性賦与の試み──『最後のユニコーン』における矛盾撞着と曖昧性”を新規公開中


作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス



大学祭英文学科公開授業のお知らせ

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』の世界

11月5日(土)、11月6日(日)の両日開催

The Last Unicornー映画化の最新情報

 1982年のアニメーション版は日本では未公開だが、欧米では熱狂的ファンも多い。“アメリカ”の主題歌が今また話題になっている。
 2005年公開予定で製作進行中の実写版は、今世界中のホームページで注目を浴びている。

1 ユニコーンとは

伝説に語り伝えられたユニコーン:プリニウスの「博物誌」の記述

Pliny describes the unicorn as being very ferocious, similar in the rest of its body to a horse, with the head of a deer, the feet of an elephant, the tail of a bear; a deep, bellowing voice, and a single black horn, two cubits in length

プリニウスによれば、ユニコーンはとても獰猛で、身体そのものは馬と同様だが、頭は鹿のようで、足は象のようで、尾は熊のようで、唸る声はとても重々しく、2キュービットの長さの黒い角を持っているということだ。

伝説上のユニコーンとは様々の動物の組み合わせ、“キメラ”(chimera)にも似た存在であった。

 クリュニー美術館所蔵のタペストリー:「貴婦人とユニコーン」
 中世的“アレゴリー”の世界の中のユニコーン像

2 『最後のユニコーン』のユニコーンは、これらとは全く異なる存在属性を与えられている。

ユニコーンを語る独特の描写と比喩の用法
She was very old, though she did not know it, and she was no longer the careless color of sea foam, but rather the color of snow falling on a moonlit night.

彼女は、自分では知らなかったけれど、とても年とっていた。そして彼女はもう海の泡のような無邪気な白い色ではなく、月の照らす晩に降る雪のような白い色をしていた。


But her eyes were still clear and unwearied, and she still moved like a shadow on the sea.

けれどもユニコーンの目はまだ透き通っていて疲れを知らず、彼女は
海の上の影のように身体を運びました。


She did not look anything like a horned horse, as unicorns are often pictured, being smaller and cloven-hoofed, and possessing that oldest, wildest grace that horses have never had, that deer have only in a shy, thin imitation and goats in dancing mockery.

彼女はユニコーンがしばしば絵に描かれていたように、角のついた馬のような姿はしていなかった。体は馬よりも小さく、蹄は二つに割れていて、馬が決して所有したことのない、そして鹿はただ薄っぺらなおずおずとした物真似でしか所有したことがなく、そして山羊はおどけて踊るような形でしか持っていない“オールド”で“ワイルド”な優美さを備えていた。



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