Archive for 10 November 2005

10 November

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 406


She said, "You are a true and mortal wizard now, as you always wished. Does it make you happy?"
"Yes," he replied with a quiet laugh. "I'm not poor Haggard, to lose my heart's desire in the having of it."

ユニコーンが言いました。「あなたは不死の呪いが解かれ、本物の魔法使いになりました。あなたがいつも望んでいた通りになりました。これで満足ですか。」シュメンドリックは静かに微笑んで答えました。「はい。私は心の底から望むものを手に入れることによって、それを台無しにしてしまうハガード王のような人間ではありません。」

 シュメンドリックの返答は、ハガード王という人物の本質を見事に語るものとなっている。全てを理解すること、全てを所有することを欲するものには、理解し所有することによってもたらされる、全体の一部としての調和性からの乖離が避けられないのである。理解すべき異物として自から他を切り離す手順が必要となるからである。知ろうとする尊大な意図そのものが、深い罪悪性に満ちた行為と繋がるものであることが示唆されているのである。

用語メモ
 “heart's desire”(願望):明確な意図と優れた判断力をもって、獲得すべき対象を定めることのできる程に恵まれた才能と権力を合わせ持つものは、滅多に存在しない。しかしこのような素質に恵まれたものには、残酷な逆説が待ち受けている。全てを所有してしまった権力者にとっては、失うことの恐怖しか残らないというありふれた事実ばかりではない。獲得することによって失われるものとは、全体性の一部としての帰属性であろう。知識を獲得することによって喪失がもたらされることが避けられない、ある種の根本属性というものがあるのだ。


お願い
 “『最後のユニコーン』読解メモ”は、この第14章をもって間もなく終了となります。
 これまで解説されていた部分についての疑問、あるいは言及されていなかった箇所についての質問等がありましたら、どうかお知らせ下さい。総集編で補完したいと思います。その他リクエスト等ありましたらご遠慮なくお寄せ下さい。


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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中

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