Archive for 18 November 2005

18 November

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 2


Of course they lived at 14, and until Wendy came her mother was the chief one. She was a lovely lady, with a romantic mind and such a sweet mocking mouth. Her romantic mind was like the tiny boxes, one within the other, that come from the puzzling East, however many you discover there is always one more; and her sweet mocking mouth had one kiss on it that Wendy could never get, though there it was, perfectly conspicuous in the right-hand corner.

勿論のこと、みんなは14番地に暮らしていました。そしてウェンディが生まれるまでは、一家の主役はお母さんでした。ダーリング夫人は素敵な女性で、ロマンティックな心を持ち、あの人をからかうような魅力的な口許がありました。ダーリング夫人のロマンティックな心は、いくら開けてもまだ次から次に中から出てくる、不思議な東洋からやって来た小さな小箱のようでした。そして彼女の魅力的なからかうような口は、ウェンディがどうしても手に入れることのできないキスを一つその上に浮かべていました。右の端にあるのははっきりと見えてはいたのですけれど。

 最初に "of course"とあるのは、語りつつあるお話の筋について読者が既に了解済みであるかのように話を進めるという、伝統的なおとぎ話の手法を取り入れているものであると同時に、劇Peter Panの上演の後しばらくたってからこの小説版Peter and Wendyが出版された経緯を反映してもいる。つまりPeter and Wendyを手にした読者の大部分が、このお話の筋のあらましを実際に知っていた筈なのである。この後も“of course”が繰り返して用いられることとなる。
 類型的なファンタシー文学作品の多くが、大人や親といった存在を排斥せざるを得ない子供の世界を中心に描かれるのと異なって、本作品においては主人公達の親である大人が、むしろ独特の存在意義を示すものとして描かれることとなる。殊にダーリング夫人、キャプテン・フック、そして作者「私」に注目すべきである。これはantifantasyの特徴の一例として数えられる重要な特質である。この箇所に言及されている“キス”に関する記述は、本作品の観念小説としての側面が目立つところでもある。これはモダニズムの小説家Barrieの得意とする技法であった。

用語メモ
 tiny boxes:不思議な謎を秘めたような、東洋からもたらされた器物である。その入れ子構造というパターンは、お母さんの口元に浮かぶ“キス”の示す回転体の投影イメージと共に、幻惑と不可解性の底に潜む魔術的神秘の存在を暗示しているかのようである。




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