Archive for 19 November 2005

19 November

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 3


The way Mr. Darling won her was this: the many gentlemen who had been boys when she was a girl discovered simultaneously that they loved her, and they all ran to her house to propose to her except Mr. Darling, who took a cab and nipped in first, and so he got her. He got all of her, except the innermost box and the kiss. He never knew about the box, and in time he gave up trying for the kiss. Wendy thought Napoleon could have got it, but I can picture him trying, and then going off in a passion, slamming the door.

ダーリング氏がお母さんを妻として勝ち取ったのは、こんな風にしてでした。お母さんが少女だった頃、同じ年頃のお友達だった多くの紳士達は、一斉に自分達がこの娘のことを好きなことに気が付いたのです。そして誰もがみんな自分がお母さんに求婚しようと、お母さんのお家を目指して駆け出しました。けれどもダーリング氏だけは違いました。ダーリング氏は馬車を呼び止めて、一足先に駆け付けたのです。ダーリング氏は彼女の全てを手に入れました。一番奥の箱とキスを除いては。ダーリング氏は箱のことは決して知ることはありませんでしたし、キスの方はまもなく手に入れようとするのをあきらめたのでした。ウェンディは、ナポレオンだったらこの箱を手に入れることが出来たかもしれないと思いました。でも私は、ナポレオンがこの箱を欲しがってお母さんに言い寄り、すげなく断られて癇癪を起こし、ドアを叩き付けて出て行くところを描いて見せることができます。

 ライバルの求婚者達から選り抜かれたヒーローという主題は、ホーマーの『イリアッド』を思い浮かばせる。格調高い神話や伝説に描かれる主人公が、強大な魔物を倒したり勇壮な戦績を挙げるのに対し、本編のダーリング氏は姑息な俗世間的才覚でもって友人達を出し抜き、妻を勝ち取るのである。正統的なファンタシー文学が世俗の価値観を超越した、本物の英雄の業績を描くことを目的としていると解すならば、Peter and Wendyは古代の勇壮な主題の現代の矮小な社会における皮肉な味付けの許での再展開という意図を含むものとして解釈することもできる。antifantasyの要素の一例として数えることができる部分である。James JoyceのUlyssesと比較すると興味深いだろう。

用語メモ
 観念小説:表現上の言葉の遊びから、その観念が独特の存在物であるかのように扱われる仮構世界を展開する観念小説、奇想小説の領域へと飛躍するのは、バリの小説作法における得意技であった。この機構における作者「私」の作品世界への登場は、メタフィクションの機構の典型的な一例であるとともに、裏の主題である「自我の分裂」の発現の一翼を担う要素ともなっている。



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