Archive for 16 December 2005

16 December

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 30


Chapter 2
THE SHADOW
 Mrs. Darling screamed, and, as if in answer to a bell, the door opened, and Nana entered, returned from her evening out. She growled and sprang at the boy, who leapt lightly through the window. Again Mrs. Darling screamed, this time in distress for him, for she thought he was killed, and she ran down into the street to look for his little body, but it was not there; and she looked up, and in the black night she could see nothing but what she thought was a shooting star.
 She returned to the nursery, and found Nana with something in her mouth, which proved to be the boyユs shadow. As he leapt at the window Nana had closed it quickly, too late to catch him, but his shadow had not had time to get out; slam went the window and snapped it off.

 ダーリング夫人は叫び声をあげました。そしてあたかもベルの音に応じたかのようにドアが開き、ナナが入ってきました。夜のお散歩から戻ったのです。ナナはうなり声をあげ、少年に跳びかかりました。少年はひらりと窓から飛び出しました。もう一度ダーリング夫人は叫び声をあげました。今度は、少年のことを心配して思わず声をあげたのです。この子が死んでしまったと思ったのでした。ダーリング夫人は少年の身体を探しに、下に駆け降りました。けれども下には、誰もいませんでした。ダーリング夫人は空を見上げました。そこには流れ星と見えたものを除いて、何も眼に入りませんでした。
 ダーリング夫人は子供部屋に戻りました。するとナナが何かを口にくわえているのが分かりました。それは少年の影だったのです。少年が窓の方へ跳び上がった時、ナナは素早くその窓を閉めたのでした。少年を捕まえるのには間に合いませんでした。でも少年の影は出て行く暇がなかったのです。ぴしゃり、と窓は閉まり、影を切り取ってしまったのでした。

 切り離されたピーターの影は、この章の表題ともなっている。しかしながらこのエピソードは、『ピーターとウェンディ』の裏の主題である「影(分身)の生成と人格の分裂」という悲劇を偽装するために用意されたものであるとも考えることができる。影(分身)と本体との再統合という典型的なファンタシー的主題が結局は完遂されることなく、「本体の破滅と影のみの孤独な遊離」という裏返しのファンタシーとして本作品が語られることとの照応を読みとってみれば興味深い。

用語メモ
 snap:“ぴしゃり”、“ぱちり”、“ぱくり”という音。あるいはそのような音を立てる動作をすることである。カメラのスィッチを押すのもスナップだし、犬などが噛み付くのもスナップである。

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連絡先 047ー371ー1375
english@wayo.ac.jp



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