Archive for 25 December 2005

25 December

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 39


 "I wonder," Mr. Darling said thoughtfully, "I wonder." It was an opportunity, his wife felt, for telling him about the boy. At first he pooh-poohed the story, but he became thoughtful when she showed him the shadow.
 "It is nobody I know," he said, examining it carefully, "but it does look a scoundrel."
 "We were still discussing it, you remember," says Mr. Darling, "when Nana came in with Michael's medicine. You will never carry the bottle in your mouth again, Nana, and it is all my fault."
 Strong man though he was, there is no doubt that he had behaved rather foolishly over the medicine. If he had a weakness, it was for thinking that all his life he had taken medicine boldly, and so now, when Michael dodged the spoon in Nana's mouth, he had said reprovingly, "Be a man, Michael."
 "Won't; won't!" Michael cried naughtily. Mrs. Darling left the room to get a chocolate for him, and Mr. Darling thought this showed want of firmness.
 "Mother, don't pamper him," he called after her.
 "Michael, when I was your age I took medicine without a murmur. I said, `Thank you, kind parents, for giving me bottles to make we well.'"

 「どんなものかな。」ダーリング氏は勿体をつけて言いました。「さてね。」お母さんは、この時こそあの少年のことをお父さんにお話しするいい機会だと思いました。最初のうちは、お父さんはこの話を真に受けませんでした。けれどもお母さんがあの影を見せると、お父さんも顔つきが変わりました。
 「これは僕の知っている誰のものでもない。」じっくりと確かめながらダーリング氏が言いました。「でも、どうみてもろくな奴じゃないな。」
 「そうして僕達が話し合っている時だったよね。」と、ダーリング氏は言うのです。「その時ナナが、マイケルのお薬を持ってやって来たのだったね。お前はあれ以来、お薬の瓶を口にくわえることはなくなってしまったな、ナナ。みんな僕の責任だ。」
 ダーリング氏は、しっかりした人ではありましたが、このお薬の件で彼がいささか大人気ない行動をとったことには、疑いの余地はありませんでした。もしも彼に間違いがあったとするならば、彼がこれまで自分はいつも勇敢にお薬を口にしてきたと考えたことでした。そういう訳で、ナナが口にくわえて差し出したスプーンからマイケルが顔をそむけた時、お父さんはたしなめるような口調で言ったのでした。「男らしくするんだ、マイケル。」
 「嫌だよ、嫌だよ。」マイケルは聞き分けなく叫びました。ダーリング夫人は、マイケルにチョコレートを持って来てあげようと、部屋から出て行きました。ダーリング氏は、これではちょっと威厳を欠くと思いました。
 「お母さん、マイケルを甘やかしちゃ、いけないよ。」お父さんはお母さんの背中に呼び掛けました。「マイケル、僕が君の年齢の頃にはね、ぶつぶつ言わずにお薬を飲んでいたものだ。『お父さん、お母さん、僕の健康のためにお薬を下さって、どうもありがとう。』ってね。」

 大人は、子供に対する時だけは、大人のふりをする。

用語メモ
 medicine(お薬):19世紀の頃のイギリスでは、毎晩健康のためと称して、嫌な味の薬を子供に飲ませていたらしい。様々の文学作品にしばしば登場する場面である。新しい型の都会生活をしているダーリング家でも、この旧習を行っていたのだろうか?あるいは、19世紀末から20世紀初めのロンドンにおける、各種伝染病の蔓延の影響が影を落としているのであろうか?



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参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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