Archive for 26 December 2005

26 December

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 40


He really thought this was true, and Wendy, who was now in her night-gown, believed it also, and she said, to encourage Michael, "That medicine you sometimes take, father, is much nastier, isn't it?"
"Ever so much nastier," Mr. Darling said bravely, "and I would take it now as an example to you, Michael, if I hadn't lost the bottle."
He had not exactly lost it; he had climbed in the dead of night to the top of the wardrobe and hidden it there. What he did not know was that the faithful Liza had found it, and put it back on his wash-stand.
"I know where it is, father," Wendy cried, always glad to be of service. "I'll bring it," and she was off before he could stop her. Immediately his spirits sank in the strangest way.
"John," he said, shuddering, "it's most beastly stuff. It's that nasty, sticky, sweet kind."
"It will soon be over, father," John said cheerily, and then in rushed Wendy with the medicine in a glass.
"I have been as quick as I could," she panted.
"You have been wonderfully quick," her father retorted, with a vindictive politeness that was quite thrown away upon her. "Michael first," he said doggedly.

 ダーリング氏は実際に、自分の言っていることが本当だと信じていました。そして今は寝間着に着替えたウェンディも、お父さんの言葉を信じました。だから、マイケルを元気づけようとして言ったのです。「お父さん、お父さんが時々飲む薬は、もっとひどい味なんでしょ。」
 「そりゃそうさ。はるかにひどいね。」そして勇敢にも、ダーリング氏は続けました。「マイケル、君のお手本になるように、今だってあのお薬を飲んでみせるんだがね。もしもお薬の瓶をなくしてさえいなかったらね。」
 実際には、お父さんはお薬の瓶をなくしていた訳ではありませんでした。お父さんは、真夜中に箪笥の天辺まで登って、そこにお薬の瓶を隠しておいたのです。でもお父さんは、忠実な小間使いのリザがこのお薬を見つけて、お父さんの洗面台の上に戻しておいたのを知りませんでした。
 「私はあのお薬がどこにあるか知ってるわ、お父さん。」ウェンディが叫びました。いつも喜んでお父さんのお手伝いをするのです。「持って来てあげる。」こう言って、ウェンディはお父さんが引き止める間もなく、飛び出していきました。奇妙にもお父さんの元気はあっという間にしぼんでしまいました。
 「ジョン。」お父さんは身震いしながら言いました。「あれはとんでもない味のお薬なんだ。べっとりとして、甘ったるくて。」
 「すぐに終わるよ。お父さん。」ジョンは弾んだ声で言いました。そしてその時、ウェンディがお薬を入れたコップを手に、飛び込んできたのでした。
 「大急ぎで取って来たのよ。」ウェンディは、息を切らしながら言いました。
 「本当にびっくりするほど早かったね。」お父さんは答えました。恨みのこもったような、馬鹿丁寧な言い方でした。「マイケルが先に飲むんだ。」ダーリング氏は、有無を言わさぬ強い口調で言いました。

 現実は、思いどおりに事が進むことは決してない。善意は空回りし、思い込みは裏切られる。だからこそ、心の中の理想の世界が必要となってくる。この作品の、ファンタシー内奥にある心理学を突き放して見つめる、基幹的な主題である。

用語メモ
 vindictive:“悪意のある”、“執念深い”といった意味の言葉である。お父さんは本気でウェンディを恨んでいる。





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kuroda@wayo.ac.jp



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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中








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