Archive for 30 December 2005

30 December

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 44


 Alas, he would not listen. He was determined to show who was master in that house, and when commands would not draw Nana from the kennel, he lured her out of it with honeyed words, and seizing her roughly, dragged her from the nursery. He was ashamed of himself, and yet he did it. It was all owing to his too affectionate nature, which craved for admiration. When he had tied her up in the back-yard, the wretched father went and sat in the passage, with his knuckles to his eyes.
 In the meantime Mrs. Darling had put the children to bed in unwonted silence and lit their night-lights. They could hear Nana barking, and John whimpered, "It is because he is chaining her up in the yard," but Wendy was wiser.
 "That is not Nana's unhappy bark," she said, little guessing what was about to happen; "that is her bark when she smells danger."
 Danger!
 "Are you sure, Wendy?"
 "Oh, yes."

 残念ながら、ダーリング氏は耳を傾けようとしなかったのでした。お父さんは、一家の主人は誰であるのか見せつけてやろうと、心に決めていました。呼びつけてもナナが小屋から出てこようとしないのを見ると、お父さんは猫なで声でナナを誘い出し、荒々しく首根っこを掴むと、子供部屋から引きづり出してしまったのです。ダーリング氏は自分の行いを心の中では恥じていました。でも、そうしたのです。みんなダーリング氏の、周囲の賞賛を浴びたいという強い思いのせいでした。ナナを裏庭につなぎ留めると、惨めな父親は戻って来て、廊下で両手で顔を覆って座り込みました。
 そうするうち、ダーリング夫人はいつになく押し黙ったまま子供達を床に寝かし付け、ベッドの脇に蝋燭を灯しました。するとナナが吠えている声が聞こえました。ジョンが泣き声をあげていいました。「お父さんが裏庭でナナを鎖に繋いでいるんだ。」けれどもウェンディは、もっと良く分かっていました。
 「あれはナナが悲しい時の声ではないわ。」何が起ころうとしているかも良く分からないまま、続けました。「あれはナナが、危険が迫ったことを察した時の声だわ。」
 危険が迫っている!
 「それは確かなの?ウェンディ。」
 「間違いないわ。」

 ここには家長的存在の示す勇壮でもなく、賢明でもない愚劣さが描き出されている。人間存在の崇高な本源的意義などを認めようとすることの決してない、客観的写実主義に基づいた感覚の描写がここにある。これは典型的なファンタシーの感覚とは相容れない、対照的な思想的傾向なのである。

用語メモ
 night-lights:ベッドの脇に灯す、蝋燭の灯りである。



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kuroda@wayo.ac.jp



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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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