Archive for 13 February 2005

13 February

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 136


Offering no true magic, he drew no magic back from them;

本物の魔法を使ってみせることができなかったので、彼は観客から魔法を引き出すことはできなかったのでした。

 夫婦喧嘩を取り繕ってやるために、魔法の技を山賊達の前で披露してやろうとしたシュメンドリックであるが、例によって思い通りの魔法の効果を発揮することはできない。ここでは魔法とは、歌唱や舞踊にも似たエンターテインメントの要素を持つものであるらしい。演じるものとそれを観て取る者達の相互の間に働く一体感のようなものが、本物の魔法の発現には要求されるようだ。『最後のユニコーン』の中心的主題である魔法の本質を語る重要な部分であると思われる。魔法の発現は魔法使いという主体が及ぼす一方的な行為としてではなく、動作の主体と動作を及ぼされる客体との間の一種の相互作用として導かれるのである。

用語メモ
 主客の転倒とバロック的宇宙観:事象の発現を行為者によってもたらされた結果としてしか理解しようとしない現代科学が魔法を認めようとしないのは、当然のことだろう。魔法の存在を認知する全く別種の世界観においては、能動と受動は同じ一つの出来事の裏と表でしかない。存在と現象、部分と全体、主体と客体の転換が常時反転的に行われるような、時間軸の拘束の無い次元においては、全てが一つの実在の示す多様な様相の各々として認められる。


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(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」を新規公開中)


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