Archive for 22 February 2005

22 February

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 145


But Molly pushed him aside and went up to the unicorn, scolding her as though she were a strayed milk cow. "Where have you been?" Before the whiteness and the shining horn, Molly shrank to a shrilling beetle, but this time it was the unicorn's old dark eyes that looked down.

けれどもモリーはシュメンドリックを押し退けて、ユニコーンの方に近付いていき、まるでユニコーンが迷った乳牛であるかのように叱りつけたのでした。「一体、どこに行っていたの。」ユニコーンの輝く角と白い体の前では、モリーはきいきい音を立てる甲虫のようでしかありませんでした。しかし今度深く黒い目を伏せたのは、ユニコーンの方だったのです。

 ユニコーンを認めた時のモリーの反応である。作者はモリーとユニコーンの間にどのような心の動きがあったのかを具体的に語ってはいない。またモリー自身がどのような判断に基づいて、ユニコーンに対してこのような接し方をすることを選んだのかも、説明されてはいない。そして、この語られていない未知の部分が、ユニコーンという存在と、ユニコーンを取り巻く重要な登場人物達の存在属性を決定する、本作品の設立機構を最も雄弁に語ることになっているのである。

用語メモ
 自然な記述:具体的に日常生活を描いた「現実的」な小説作品においては、「自然な」情動の変化とその情動が導かれることになった因果関係を正確に記述することに力点が置かれることもあり得る。しかし「自然」であることを根本的に放棄して、「超自然」な仮構世界を構築する作業が行われようとする場合には、むしろ登場人物の「不自然」な言動こそが、仮構世界を形成する基本軸の存在を浮き彫りにする有力な手段として、活用されることになるのである。


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(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」を新規公開中)


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