Archive for 04 May 2005

04 May

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 216


Schmendrick had a last vision of him as he gained the rim of the valley: no shape at all, but a swirling darkness, the red darkness you see when you close your eyes in pain. The horns had become the two sharpest towers of old King Haggard's crazy castle.

レッド・ブルが谷間の端までやって来た時、シュメンドリックは彼の姿を最後に目にすることができました。それは形といってよいものではもはや無く、痛みに思わず目を閉じた時に感じられる赤い視界のような、渦巻く暗闇でした。牡牛の二本の角はハガード王の馬鹿げた城の二本の尖った尖塔に重なっているのでした。

 レッド・ブルの巨大さに相反する実体性の無さが、自然界に実在する外的存在物としてではなく、個人の意識の内部機構に属する幻影であるかのように語られている。牡牛の存在性は実体性を喪失して、むしろ心象あるいは観念に近いものとなるのである。『ピーターとウェンディ』において語られているNeverlandという世界の存在性向と共通する部分があるようにも思われる。

用語メモ
 唯識:現象世界の存在を否定し、すべては心の迷妄の生み出した幻想と解釈する、古代インドに生まれた宇宙論である。質量・粒子という単位構成物をもとにした近代西洋の自然科学的な存在論が瓦解した70年代以降、より包括的な世界観として改めて再評価されることとなった。


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作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス

(論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(13)「荒唐無稽とアナクロニズムとペテン的記述―『最後のユニコーン』における時間性と関係性の解体と永遠性の希求」、『ピーターとウェンディ』注釈テキスト "Annotated Peter and Wendy"等を公開中)


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