Archive for 13 July 2005

13 July

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 286


Her heir was down, and her feet were bare, and the sight of her on the stair sent such sorrow licking along Prince Lir's bones that he dropped his poems and his pretenses together and actually turned to run. But he was a hero in all ways, and he turned bravely back to face her, saying in a calm and courtly manner, "Give you good evening, my lady."

アマルシア姫は髪を降ろしていて、足は素足でした。階段の上に佇んでいる彼女の姿を目にして、リア王子はいとおしさの気持ちが骨の中に疼くのを感じたのでした。そして王子は、書き留めた詩も英雄らしい振る舞いも両方共忘れ去ってしまい、踵を返して逃げ出してしまったのでした。けれどもリア王子は、どこをとってみても完璧な英雄でした。彼はすぐに振り返ってアマルシア姫の前に立ち、落ち着いた騎士らしい振る舞いで語りかけました。「ご機嫌いかがですか、姫君。」

 昂る愛の気持ちのためにどぎまぎした様子のリア王子を語る描写は、揶揄的な諧謔性に満ちたものであると同時に、新鮮な初々しさも感じさせるものとなっている。この物語特有の、潤いに満ちた素朴さと辛辣な皮肉の融合の典型的な例を示す場面である。

用語メモ
 対象離反性:“sent such sorrow licking along Prince Lir's bones”の部分は、頼り無さそうなアマルシア姫の姿が“リア王子の骨に舐めるような感触を送った”、と描写されている。“背筋に濡れたものが走る”ようなぞくっとした感触とは、記述対象を突き放したような、醒めた感覚で語られていることが分かる。“dropped his poems and his pretenses”(詩も英雄としての建前も取り落としてしまった)の部分も、かなり意地の悪い、共感に乏しい描き方ではある。描きつつあるものに対する過剰な作者の思い入れは、しばしば“対象癒着性”という欠点に導かれるものだが、ここにあるのはそれとは見事に対照的な、醒めたドライな感覚である。しかしながら作者ビーグルの示す皮肉は、物語世界の鮮やかな瑞々しさを損なうこともない。


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論文、アンチ・ファンタシーというファンタシー(14)“意味消失による意味性賦与の試み──『最後のユニコーン』における矛盾撞着と曖昧性”を新規公開中


作品研究サンプル
▼『不思議の国のアリス』とファンタシーの世界
・映画“ラビリンス”とアリス
・映画“ドリーム・チャイルド”とアリス



オープン・キャンパス英文学科模擬授業のお知らせ

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』の世界

7月17日、14時30分より、15時15分まで
和洋女子大学 東館9ー2教室にて開催
(時間、教室が変更になりました。)

『最後のユニコーン』と魔法の記述

 Peter Beagle の長篇ファンタシー作品『最後のユニコーン』(The Last Unicorn)では、魔法についての記述に独創的な表現が駆使されており、“あり得ない物語世界”と“永遠の美と真実”というファンタシー文学の中心的主題を効果的に導き出すことに成功している。

1 魔女の語る言葉

Her voice left a flavor of honey and gunpowder on the air.

魔女の声は蜂蜜と火薬の匂いを空気に漂わせました。

2 魔女の発した魔法の呪文

There was a smell of lightning about the unicorn when the old woman had finished her spell.

3 魔法使いの唱えた魔法の呪文

Schmendrick took a deep breath, spat three times, and spoke words that sounded like bells ringing under the sea. He scattered a handful of powder over the spittle, and smiled triumphantly as it puffed up in a single silent flash of green. When the light had faded, he said three more words. They were like the noise bees might make buzzing on the moon.

アニメーション映画 “The Last Unicorn”の紹介、
『最後のユニコーン』についての質疑応答も行います。


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