Archive for 01 February 2006

01 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 77


 The first to pass is Tootles, not the least brave but the most unfortunate of all that gallant band. He had been in fewer adventures than any of them, because the big things constantly happened just when he had stepped round the corner; all would be quiet, he would take the opportunity of going off to gather a few sticks for firewood, and then when he returned the others would be sweeping up the blood. This ill-luck had given a gentle melancholy to his countenance, but instead of souring his nature had sweetened it, so that he was quite the humblest of the boys. Poor kind Tootles, there is danger in the air for you to-night. Take care lest an adventure is now offered you, which, if accepted, will plunge you in deepest woe. Tootles, the fairy Tink, who is bent on mischief this night is looking for a tool, and she thinks you are the most easily tricked of the boys. 'Ware Tinker Bell.
 Would that he could hear us, but we are not really on the island, and he passes by, biting his knuckles.

 最初にやって来るのは、トゥートゥルズでした。この命知らずの者達の中で、勇敢さにおいて最も引けを取るとは言わないまでも、最も不運な少年が彼でした。トゥートゥルズは、他の誰よりも華々しい冒険の機会を逸することが多かったのです。重大な出来事はいつも、彼が角を曲がったその時を選んで、起こるのでした。何もかもが静穏で、ちょっとたき火に使う小枝を集めに行こうと思います。しかし彼が戻って来てみると、仲間達は血糊を拭っているところなのです。度重なる不運は、彼の容貌にほのかな憂鬱の表情を与えてはいましたが、彼の性格を気難しいものにすることはなく、むしろ柔和なものにしていました。そういう訳で、彼は少年達の中では最も控えめな態度を身に付けていたのです。いつも優しいトゥートゥルズ君、今晩ばかりは特別に用意された危険が、君を待ち受けているのだよ。これから一つの冒険が君のために提供されることになる。そしてこの冒険は、君を大変な面倒に巻き込むことになるのだ。トゥートゥルズ、ティンクは、今宵は悪巧みをこらして、自分の手先に使えそうな人物を探しているのだ。そしてティンクは、君が少年達の中で最も容易く欺くことができる人物だと考えているのだ。ティンカー・ベルには気をつけるのだよ。
 我々のこの声が、彼に聞こえていれば良かったのですが。でも私達はまだ島には来ていないのです。ですから、トゥートゥルズは何にも気付くことなく、拳を口に当てて通り過ぎて行くのです。

 この場面では、ロスト・ボーイズの一人であるトゥートゥルズという少年に関する描き方が興味深い。ピーターとの対比における“アンチ・ヒーロー”の描かれ方に注目すべきであろう。ピーターという存在の影となる者達に対する作者の眼差しは深い。
 この辺りにも物語の未来を予兆する、“伝統的な非模倣的語りの手法”が用いられていることが分かる。お話を物語る様が語られる際の語りの対象となった作者と読者の存在が、フィクション世界の中で及ぼす機能は、“メタフィクションの機構”を複雑に形成していると共に、洗練された伝統的なお話の語りの口調そのものでもやはりある。

用語メモ
 sour:人の性格をあらわす言葉としては、“不機嫌な”、“意地悪な”の意となる。
 sweet:人の性格をあらわす言葉としては、“優しい”、“柔和な”の意となる。

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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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