Archive for 10 February 2006

10 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 86


 "To return to the ship," Hook replied slowly through his teeth, "and cook a large rich cake of a jolly thickness with green sugar on it. There can be but one room below, for there is but one chimney. The silly moles had not the sense to see that they did not need a door apiece. That shows they have no mother. We will leave the cake on the shore of the Mermaids' Lagoon. These boys are always swimming about there, playing with the mermaids. They will find the cake and they will gobble it up, because, having no mother, they don't know how dangerous 'tis to eat rich damp cake." He burst into laughter, not hollow laughter now, but honest laughter. "Aha, they will die."
 Smee had listened with growing admiration.
 "It's the wickedest, prettiest policy ever I heard of!" he cried, and in their exultation they danced and sang:

 "Avast, belay, when I appear,
  By fear they're overtook;
 Nought's left upon your bones when you
  Have shaken claws with Cook."

 They began the verse, but they never finished it, for another sound broke in and stilled them. It was at first such a tiny sound that a leaf might have fallen on it and smothered it, but as it came nearer it was more distinct.
 Tick tick tick tick.
 Hook stood shuddering, one foot in the air.
 "The crocodile!" he gasped, and bounded away, followed by his bo'sun.

 「まず船に戻って、」フックはゆっくりと、つぶやくように答えました。「ずっしりとした、中身のたっぷりつまったケーキを焼く。グリーン・シュガーをかけてな。地下には部屋は一つしかないはずだ。煙突が一つきりだからな。愚かなもぐら共は、一人一人に入り口を用意する必要などないということが分からない。これは、奴らにはお母さんがいないことを意味する。だからこのケーキを人魚の入江の岸辺に置いておくんだ。餓鬼共は、いつもあの辺りで人魚と戯れながら泳いでいるからな。ケーキを見つければ早速飛び付いて、貪り食うだろう。だが、お母さんがいないので、ずっしりとした中身たっぷりのケーキを食べるのがどれほど危険なことか、分からないのだ。」こう言って、フックは声をあげて笑いました。今度はうつろな笑いではなく、心の底から楽しそうな声でした。「これで奴らは死ぬのだ。」
 スミーは聞きながら、感心するばかりでした。
 「こんなに邪悪で素敵な計略は、これまでに聞いたことがありませんな。」スミーは叫びました。そして二人は、有頂天になって歌いながら踊りだしました。

 待て、止まれ、俺が姿を現せば、
  奴らは恐怖にかられる
 クックと爪を交えれば、
  お前の骨には、何も残らない

 二人はこの唄を歌い始めました。でも、最後まで歌いきることはなかったのです。別の物音が、二人の唄を妨げてしまったからです。その音は、最初はごく小さなもので、木の葉一枚でもふさぐことができそうに思われました。けれども近付いてくるにつれ、その音はもっとはっきりとしたものになってきました。
 カチ、カチ、カチ、カチ
 フックは、片足はまだ宙にあげたまま、体を震わせながら立ち尽くしていました。
 「鰐だ。」フックは喘ぐように言うとあわてて逃げ去り、水夫長も後に続きました。

 先程考え付いた計略について、フックが手下のスミーに語る部分である。この部分からは、フックの洞察力の鋭さと、推論の確かさと、そして想像力の豊かさと、さらに芸術的センスの卓越性もが窺えるであろう。これらはすべて、第一級の海賊となるための必要不可欠な条件なのである。

用語メモ
 thickness:密度の高さであり、味の濃さである。どろっとしていたり、ずっしりしている状態である。さくさくしていたり、ふわふわしているのとは反対である。男子の食すべき本物のケーキは、こうでなければならない。




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