Archive for 12 February 2006

12 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 88


 Wendy was now almost overhead, and they could hear her plaintive cry. But more distinct came the shrill voice of Tinker Bell. The jealous fairy had now cast off all disguise of friendship, and was darting at her victim from every direction, pinching savagely each time she touched.
 "Hullo, Tink," cried the wondering boys.
 Tink's reply rang out: "Peter wants you to shoot the Wendy."
 It was not in their nature to question when Peter ordered. "Let us do what Peter wishes!" cried the simple boys. "Quick, bows and arrows!"
 All but Tootles popped down their trees. He had a bow and arrow with him, and Tink noted it, and rubbed her little hands.
 "Quick, Tootles, quick," she screamed. "Peter will be so pleased."
 Tootles excitedly fitted the arrow to his bow. "Out of the way, Tink," he shouted, and then he fired, and Wendy fluttered to the ground with an arrow in her breast.

 ウェンディは、もうほとんど子供達の真上にまで来ていました。そしてみんなには、ウェンディが悲しそうに叫ぶ声が聞こえました。けれども何よりもはっきりと聞こえたのは、ティンカー・ベルの放つ、甲高い声でした。嫉妬の念にかられた妖精は、もう友好的な素振りはすっかり捨て去って、ウェンディの体の周囲を飛び回っては、彼女を思いきりつねっているのでした。
 「おーい、ティンク。」子供達は、いぶかしがりながら声をかけました。
 ティンクの大きな声が響き渡りました。「ピーターが、ウェンディを矢で射るようにって言ってるよ。」
 ピーターの命令とあれば、ためらうことがないのが子供達でした。「ピーターの言う通りにしよう。」愚かな少年達は、叫びました。「早く、弓と矢を持ってこい。」
 トゥートゥルズを除いた全ての子供達が、自分の木の中に飛び込みました。トゥートゥルズは、弓と矢を手元に持っていました。ティンクはこれに気が付くと、彼女の小さな両手を揉み合わせました。
 「早く、トゥートゥルズ、急いで。」ティンクは叫びました。「ピーターを、喜ばせることができるよ。」
 トゥートゥルズは、わくわくしながら矢を弓につがえました。「前をどいて、ティンク。」トゥートゥルズは叫びました。そして矢を放ちました。ウェンディは胸に矢を受けて、地面の上に墜ちてきました。

 嫉妬の念にかられた妖精のティンカー・ベルが、醜い感情に身を任せてウェンディと子供達を欺き、悪辣な傷害行為を及ぼさせるのである。この物語は、子供向けを意識して毒を抜いた描写や、口当たりよく修正した筋の展開などとはむしろ対極的な、辛辣で残酷な事態の展開を示していくことになる。

用語メモ
 bitterness:読者の心に満足と安寧を与える優しさや甘さではなく、辛辣さあるいは苦々しさの味わいが、このお話を彩る独特の風趣となっているのである。





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