Archive for 13 February 2006

13 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 89


Chapter 6
THE LITTLE HOUSE
 Foolish Tootles was standing like a conqueror over Wendy's body when the other boys sprang, armed, from their trees.
 "You are too late," he cried proudly, "I have shot the Wendy. Peter will be so pleased with me."
 Overhead Tinker Bell shouted "Silly ass!" and darted into hiding. The others did not hear her. They had crowded round Wendy, and as they looked a terrible silence fell upon the wood. If Wendy's heart had been beating they would all have heard it.
 Slightly was the first to speak. "This is no bird," he said in a scared voice. "I think this must be a lady."
 "A lady?" said Tootles, and fell a-trembling.
 "And we have killed her," Nibs said hoarsely.
 They all whipped off their caps.
 "Now I see," Curly said: "Peter was bringing her to us." He threw himself sorrowfully on the ground.
 "A lady to take care of us at last," said one of the twins, "and you have killed her!"
 They were sorry for him, but sorrier for themselves, and when he took a step nearer them they turned from him.
 Tootles' face was very white, but there was a dignity about him now that had never been there before.
 "I did it," he said, reflecting. "When ladies used to come to me in dreams, I said, 'Pretty mother, pretty mother.' But when at last she really came, I shot her."

 子供達が武器を手に木から飛び出した時、愚かなトゥートゥルズは勝ち誇ってウェンディの亡骸を見下ろしていました。
 「遅かったな。僕がウェンディを撃ち落としてしまったぞ。ピーターはさぞかし喜ぶだろうな。」満足げに言いました。
 頭上でティンカー・ベルが叫びました。「この、間抜け!」そして素早く身を隠しました。他の少年達には、彼女の声は聞こえませんでした。彼等はウェンディの体の周りを取り囲みました。恐ろしい沈黙が辺りを包みました。もしもウェンディの心臓が鼓動を打っていたら、全員が聞き取ることができていたことでしょう。
 最初に口を開いたのは、スライトリーでした。「これは鳥なんかじゃない。」怯えた声で言いました。「これは多分、女の子だ。」
 「女の子だって?」こういうと、トゥートルズは体を震わせ始めました。
 「僕らは、女の子を殺しちゃったんだ。」ニブズがかすれた声で言いました。
 子供達は全員あわてて帽子を脱ぎました。
 「分かったぞ。」カーリーが言いました。「ピーターがこの子を連れて来たんだ。こう言うと、悲しそうに地面に身を投げ出しました。
 「僕らの面倒を見てくれる女の子だ。」双子の一人が言いました。「ようやく来てくれたのに、お前が殺しちゃったんだ。
 子供達は、トゥートルズのことを可哀想に思いました。でも自分の身の方がもっと大事でした。ですからトゥートルズが一歩彼等の方に近寄ると、彼等は顔を背けました。
 トゥートルズの顔は青ざめていました。けれども彼の顔には、これまで無かったような毅然とした表情が浮かんでいました。
 「僕がやったんだ。」顛末を思い起こしながら言いました。「夢の中で女の子がやって来た時は、『お母さん、素敵なお母さん』って呼んだものだ。でも、ようやく本当にやって来てくれた時、僕はお母さんを撃ち落としてしまったんだ。

 子供達は常に身勝手で、他人のことを思いやることがない。彼らのハートレスな属性は、この作品の裏の主題を形成している。人間の精神のあり方の実情を、幻想を排した透徹した目で見通したあり得ない幻想物語が、このお話なのである。

用語メモ
 conqueror:征服者である。権勢を振るって異民族を屈服させた、国民の尊敬を集める誇り高い人物であり、本人には限りない満足を与えてくれる称号である。
 dignity:人々の賞賛の対照となる高邁な態度、振る舞いである。ここでは自分の失敗を認めた、孤立した哀れな受難者の表情を語る言葉としてこの語が用いられている。





「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



00:00:00 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks