Archive for 16 February 2006

16 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 92


 "Listen to Tink," said Curly, "she is crying because the Wendy lives."
 Then they had to tell Peter of Tink's crime, and almost never had they seen him look so stern.
 "Listen, Tinker Bell," he cried, "I am your friend no more. Begone from me for ever."
 She flew on to his shoulder and pleaded, but he brushed her off. Not until Wendy again raised her arm did he relent sufficiently to say, "Well, not for ever, but for a whole week."
 Do you think Tinker Bell was grateful to Wendy for raising her arm? Oh dear no, never wanted to pinch her so much. Fairies indeed are strange, and Peter, who understood them best, often cuffed them.
 But what to do with Wendy in her present delicate state of health?
 "Let us carry her down into the house," Curly suggested.
 "Ay," said Slightly, "that is what one does with ladies."
 "No, no," Peter said, "you must not touch her. It would not be sufficiently respectful."
 "That," said Slightly, "is what I was thinking."
 "But if she lies there," Tootles said, "she will die."
 "Ay, she will die," Slightly admitted, "but there is no way out."
 "Yes, there is," cried Peter. "Let us build a little house round her."
 They were all delighted. "Quick," he ordered them, "bring me each of you the best of what we have. Gut our house. Be sharp."
 In a moment they were as busy as tailors the night before a wedding. They skurried this way and that, down for bedding, up for firewood, and while they were at it, who should appear but John and Michael. As they dragged along the ground they fell asleep standing, stopped, woke up, moved another step and slept again.

 「ティンクが、何か言ってる。」カーリーが言いました。「ティンクは、ウェンディがまだ生きているので、くやしがっているんだ。」
 「子供達は、ティンクの悪事をピーターに告げました。それを聞いたピーターは、子供達がこれまで見たことのないような厳しい顔になりました。
 「いいか、ティンカー・ベル」大きな声で言いました。「もう君のことなんか、知らない。どこかに行ってしまえ。」
 ティンクはピーターの肩の上に降り立ち、懇願しました。でもピーターは、ティンクを払いのけました。ウェンディがもう一度腕をあげた時、ようやく言い直しました。「帰って来てもいい。でも、一週間はだめだ。」
 ティンカー・ベルは、ウェンディが腕をあげてくれたのを感謝したと思いますか?そんなことはなかったのです。よりいっそうひどく、つねってやりたいと思ったのでした。妖精というものは、本当に訳が分からないのです。ピーターは、誰よりも妖精のことがよく分かっているので、よく彼等を手で打ったりしたものでした。
 さて、今の微妙な体の具合のウェンディを、どうしたら良いでしょう?
 「地下の部屋に運んで行こうよ。」カーリーが言いました。
 「うん。女の子にはそうするもんだ。」スライトリーが言いました。
 「いや、駄目だ。」ピーターが言いました。「ウェンディの体に手を触れてはいけない。それでは、失礼になる。」
 「僕も今、そう考えていたんだ。」スライトリーが言いました。
 「でもあそこに寝たままだったら、きっと死んじゃうよ。」トゥートゥルズが言いました。
 「うん、死んじゃうな。」スライトリーも言いました。「でも、他にどうしようもないぞ。」
 「いや、ある。」ピーターが叫びました。「ウェンディの周りに、小さな家を建てるんだ。」
 子供達は、みんな大喜びでした。「急げ。」ピーターが命じました。「誰もが、僕らの持っている一番いいと思うものを、持って来い。僕らの家を、略奪するんだ。もたもたするな。」
 一瞬のうちに子供達は、婚礼の日の前の晩の仕立屋のように、忙しく立ち働いていました。こうして彼等が、土台を作る材料を取りに降りたり、薪を持って上がったり、あちらこちらを走り回っている時に、姿を現したのがジョンとマイケルでした。足を引きずって歩いているうちに、立ったまま眠り込んでしまい、立ち止まっては目を覚まし、また一歩踏み出しては眠りに落ちたりしていたところでした。

 気を失ったウェンディも、ウェンディを救うために様々の工夫を凝らす子供達も、もうすでにメイク・ビリーブ(ごっこ遊び)の中に陥っている。全てが意識の熱中の結果もたらされた、思い込みの世界になっているのである。

用語メモ
 gut:“はらわた”、あるいは“はらわたを抜く”ことである。ウェンディの家を造ってあげるために、自分達の家から目ぼしいものを奪って来るというのである。ピーターは何をするにあたっても、その作業をわくわくするような危険な香りのする冒険に変えてしまう。この破壊的な歓喜の感覚を失ってしまっては、もう楽しく生きることは出来ない。だから気の抜け果てた大人達は、面白い子供の遊びを眼の敵にするのである。

 bedding:文字通りベッドに乗せる寝具類のことを指すが、また一方建築物の土台のことを指しもする。“river bed”なら“川床”である。bedの持つ意味の幅は広い。






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