Archive for 18 February 2006

18 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 94


 "Please, sir," said Peter, going to him, "are you a doctor?"
 The difference between him and the other boys at such a time was that they knew it was make-believe, while to him make-believe and true were exactly the same thing. This sometimes troubled them, as when they had to make-believe that they had had their dinners.
 If they broke down in their make-believe he rapped them on the knuckles.
 "Yes, my little man," anxiously replied Slightly, who had chapped knuckles.
 "Please, sir," Peter explained, "a lady lies very ill."
 She was lying at their feet, but Slightly had the sense not to see her.
 "Tut, tut, tut," he said, "where does she lie?"
 "In yonder glade."
 "I will put a glass thing in her mouth," said Slightly, and he made-believe to do it, while Peter waited. It was an anxious moment when the glass thing was withdrawn.
 "How is she?" inquired Peter.
 "Tut, tut, tut," said Slightly, "this has cured her."
 "I am glad!" Peter cried.
 "I will call again in the evening," Slightly said; "give her beef tea out of a cup with a spout to it"; but after he had returned the hat to John he blew big breaths, which was his habit on escaping from a difficulty.

 「ご苦労様です。」ピーターが出迎えました。「お医者様ですね?」
 こんな時のピーターと他の子供達との違いは、みんなはこれが“メイク・ビリーブ”だと分かっているのに、ピーターにとってはメイク・ビリーブと現実はいささかも変わるところがないということでした。この点が、時々子供達を混乱させることもありました。メイク・ビリーブで食事を済ませてしまったことにしなければならない時などです。
 こんな風にメイク・ビリーブをする時にみんながつまずいたりすると、ピーターは拳でみんなの頭をこづくのでした。
 「確かに医者だよ。ぼうや。」スライトリーは、ちょっとびくびくしながら答えました。何度もこづかれた覚えがあったからです。
 「ひどく具合が悪い女の子がいるんです。」ピーターが言いました。
 「ウェンディは、二人の足許に横たわっています。でもスライトリーは、ウェンディが目に入らない振りをするだけの機転を働かすことができました。
 「ふむふむ、患者さんは、どこにおられるかな。」
 「あっちの広場のところです。」
 「お口に体温計を入れてみようね。」スライトリーは言うと、体温を測る振りをしました。ピーターはじっと待っています。体温計が取り出された時は、息詰まるような一瞬でした。
 「具合は、どうですか?」ピーターが尋ねました。
 「ふむふむ、」スライトリーが答えます。「これで直ったようだね。」
 「良かった!」ピーターは叫びました。
 「晩にまた来てみることしよう。」スライトリーが言いました。ビーフ・ティーを飲ませてあげなさい。吸い口のついたカップでね。」でも、帽子をジョンに返した時、スライトリーは大きな息をついたのでした。ようやく困難を切り抜けたと思った時には、いつもこうするのでした。

 ピーターは、ウェンディの意識を取り戻させ、体調を回復させるのに、メイク・ビリーブでお医者さんにかかることにする。ネバーランドでの全ての出来事がこのように心の中の想像として生起するのである。自分自身の意志の力で自分と付き従う他者達の存在の現出と様態までも支配し続けるのがピーターである。ピーターという存在の謎を形成する要素の一つが、この能力なのである。

用語メモ
 glade:森の中の、木の生えていない空き地をこう呼ぶ。館の中の一室で床に伏せていることにしているウェンディと、実際に森の中で横たわっている実際のウェンディを結び付ける、微妙な観念上の交差軸となっているのが、この言葉なのである。
 beef tea:牛肉の出汁である。卵酒みたいな感覚で飲む。





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kuroda@wayo.ac.jp



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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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