Archive for 19 February 2006

19 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 95


 In the meantime the wood had been alive with the sound of axes; almost everything needed for a cosy dwelling already lay at Wendy's feet.
 "If only we knew," said one, "the kind of house she likes best."
 "Peter," shouted another, "she is moving in her sleep."
 "Her mouth opens," cried a third, looking respectfully into it. "Oh, lovely!"
 "Perhaps she is going to sing in her sleep," said Peter. "Wendy, sing the kind of house you would like to have."
 Immediately, without opening her eyes, Wendy began to sing:

  "I wish I had a pretty house,
   The littlest ever seen,
  With funny little red walls
   And roof of mossy green."

 They gurgled with joy at this, for by the greatest good luck the branches they had brought were sticky with red sap, and all the ground was carpeted with moss. As they rattled up the little house they broke into song themselves:

  "We've built the little walls and roof
   And made a lovely door,
  So tell us, mother Wendy,
   What are you wanting more?"

 To this she answered greedily:

  "Oh, really next I think I'll have
   Gay windows all about,
  With roses peeping in, you know,
   And babies peeping out."

 With a blow of their fists they made windows, and large yellow leaves were the blinds. But roses -- ?
 "Roses," cried Peter sternly.
 Quickly they made-believe to grow the loveliest roses up the walls.
 Babies?
 To prevent Peter ordering babies they hurried into song again:

  "We've made the roses peeping out,
   The babes are at the door,
  We cannot make ourselves, you know,
   'cos we've been made before."

 まもなく森中に斧の音が鳴り響いて、活気づきました。そして居心地の良い家を造るのに必要なものが、ほとんど全てウェンディの足許に揃っていました。
 「ウェンディは、どんな家を建てれば気に入るのかなあ。」誰かが言いました。
 「ピーター、ウェンディは眠ったまま体を動かしているよ。」別の子が言いました。
 「口を開けた。」また別の子が、敬意のこもった眼差しを向けながら言いました。「素敵だなあ。」
 「きっと、夢の中で答えてくれるぞ。」ピーターが言いました。「ウェンディ、どんな家を建てて欲しいか、言ってごらん。」
 すぐさま、目を開けもせずにウェンディが歌い始めました。

 かわいいお家がいいな。
  できるだけ、小さいの
 壁は赤い色で
  緑のお屋根がいいな

 これを聞いて、子供達は歓声をあげました。何とも運の良いことに、彼等が切って来た枝は、樹液で赤い色に染まっていたからです。そして足許には、緑の苔が生えていたのです。小さな家を組み立てながら、今度は子供達が歌い始めました。

 壁も造って、屋根も付けた
  かわいいドアも取り付けた
 ウェンディお母さん
  次は何をつくろうか

 ウェンディは、気持ちのこもった答えを返しました。

 次に作って欲しいのは、
  壁一面の素敵な窓
 周囲をバラの花が取り巻いて
 部屋の中には赤ちゃん達

 拳を固めて窓を打ち抜きました。大きな黄色の葉っぱをかけました。でも、バラの花は?
 「バラの花。」厳しい口調でピーターが命じました。
 子供達は急いで、壁を伝って生えるバラの花を思い浮かべました。
 赤ちゃん達は?
 ピーターが赤ちゃんを命じる前に、子供達はあわててまた歌い始めました。

 バラの花は用意した
  赤ちゃん達は戸口にいる
 僕達は赤ちゃんにはなれない
  前に一度なっちゃったから

 睡眠中のウェンディに語りかけて、彼女の心の中の願望を言葉にして引きだすピーターは、変成意識状態を利用して潜在意識の活性化を図る催眠療法師のようである。子供達の意識はネヴァランドを媒介にして繋がっているので、こういう芸当が可能になる。宇宙の外郭構造を精神内部の意識機構との連続性として捉える、メイク・ビリーブという概念を活かした本作品の主題を補完するエピソードである。このような失われた技の復権と超越的な能力を体現するのが、ピーターという存在である。

用語メモ
 sing:ウェンディは眠りに落ちたまま、歌を通じて潜在意識の願望を伝える。子供達はコーラスの歌を通じて、無意識状態のウェンディに覚醒状態からのコミュニケーションを図る。singingという儀式は、古代に分断されてしまった意識と無意識を結び付ける、秘匿された妙技となる。




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