Archive for 21 February 2006

21 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 97


 He knocked politely, and now the wood was as still as the children, not a sound to be heard except from Tinker Bell, who was watching from a branch and openly sneering.
 What the boys were wondering was, would any one answer the knock? If a lady, what would she be like?
 The door opened and a lady came out. It was Wendy. They all whipped off their hats.
 She looked properly surprised, and this was just how they had hoped she would look.
 "Where am I?" she said.
 Of course Slightly was the first to get his word in. "Wendy lady," he said rapidly, "for you we built this house."
 "Oh, say you're pleased," cried Nibs.
 "Lovely, darling house," Wendy said, and they were the very words they had hoped she would say.
 "And we are your children," cried the twins.
 Then all went on their knees, and holding out their arms cried, "O Wendy lady, be our mother."
 "Ought I?" Wendy said, all shining. "Of course it's frightfully fascinating, but you see I am only a little girl. I have no real experience."
 "That doesn't matter," said Peter, as if he were the only person present who knew all about it, though he was really the one who knew least. "What we need is just a nice motherly person."
 "Oh dear!" Wendy said, "you see, I feel that is exactly what I am."
 "It is, it is," they all cried; "we saw it at once."
 "Very well," she said, "I will do my best. Come inside at once, you naughty children; I am sure your feet are damp. And before I put you to bed I have just time to finish the story of Cinderella."

ピーターは恭しくノックしました。森中が、子供達と同じようにしんと静まり返りました。聞こえる物音と言えば、ティンカー・ベルの声だけでした。彼女は木の枝にとまって、挑戦的にせせら笑いながらずっと見ていたのです。
 子供達が気にかけていたのは、誰かがノックに答えてくれるだろうか、ということでした。女の子なら、どんな姿をしているのでしょう?
 ドアが開き、女の子が姿を現しました。ウェンディでした。みんなは一斉に帽子を脱ぎました。
 ウェンディは、ちゃんと驚いたような顔付きをしました。丁度みんなが、ウェンディにして欲しいと思っていた通りの表情でした。
 「ここはどこ?」ウェンディは言いました。
 勿論、最初に言葉を口にしたのはスライトリーでした。「ウェンディ母さん。僕らはあなたのために、この家を建てたんだよ。」早口に言いました。」
 「気に入って欲しいな。」ニブズが言いました。
 「とっても素敵なお家ね。」ウェンディが言いました。一言の違いもない、みんな期待していた通りの言葉でした。
 「僕らは、ウェンディの子供なんだよ。」双子達が言いました。
 そこで全員がひざまずいて、両手を差し伸べて叫びました。「ウェンディ、僕らのお母さんになってくれるよね。」
 「私があなた達のお母さん?」ウェンディは、顔をほころばせながら言いました。「それはとても素敵なことだけど、私はまだ小さいし、経験も無いし。」
 「そんなことは、問題じゃないんだ。」ピーターはここにいる中で、自分だけがなにもかも弁えている人間だと言わんばかりの様子で言いました。でも実際のところ、一番分かっていないのがピーターだったのです。「素敵な、お母さんらしい人だったら、それでいいんだ。」
 「うれしい!それだったら、私でぴったりね。」
 「そうさ。ぴったりさ。」みんなが声を揃えて言いました。「一目ですぐに分かったよ。」
 「それでは、そうしましょう。」ウェンディが言いました。「一生懸命頑張るわ。やんちゃな子供達、すぐに中に入りなさい。きっと足は泥だらけなんでしょ。床に寝かし付けてあげる前に、シンデレラのお話をしてあげるだけの時間がありそうね。」

 この場面では、子供達の行う実際の行動が、あたかも演じられる役柄のように、互いの暗黙の了承事項として執り行われていることが分かる。実体化したメイク・ビリーブとしてのネバーランドの世界が描かれているのである。生起する出来事の各々が、無意識の願望の通りに実現する。これはファンタシーに対する定義の一つとしてみなし得る特質である。

用語メモ
 演技:ある役割を演じる演技者として自分自身の位相を自覚しながら行動を選び取り、生きていく感覚というものは確かに存在する。個別の存在者としての限界を離れて全体性を俯瞰する超越者的感覚の残像でもあるかのごとくである。






「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
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参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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