Archive for 25 February 2006

25 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 101


 It was rough and simple, and not unlike what baby bears would have made of an underground house in the same circumstances. But there was one recess in the wall, no larger than a bird-cage, which was the private apartment of Tinker Bell. It could be shut off from the rest of the house by a tiny curtain, which Tink, who was most fastidious, always kept drawn when dressing or undressing. No woman, however large, could have had a more exquisite boudoir and bedchamber combined. The couch, as she always called it, was a genuine Queen Mab, with club legs; and she varied the bedspreads according to what fruit-blossom was in season. Her mirror was a Puss-in-Boots, of which there are now only three, unchipped, known to fairy dealers; the washstand was Pie-crust and reversible, the chest of drawers an authentic Charming the Sixth, and the carpet and rugs the best (the early) period of Margery and Robin. There was a chandelier from Tiddlywinks for the look of the thing, but of course she lit the residence herself. Tink was very contemptuous of the rest of the house, as indeed was perhaps inevitable, and her chamber, though beautiful, looked rather conceited, having the appearance of a nose permanently turned up.

 この部屋は、粗末な造りのもので、同じような暮らしをしている熊の赤ちゃんが、穴蔵の中であつらえそうなものとあまり変りはありませんでした。けれども壁の奥に、鳥籠ほどの大きさのもう一つの部屋がありました。それはティンカー・ベルの個室でした。小さなカーテンがかかっていて、外から視界を遮ることができるようになっていました。とても細かいことに気を使うティンクは、着替えをする時にはいつもこのカーテンを引いていました。でも、どんなに大きな部屋を持っている淑女でも、これほど精妙な、寝室と居間の一体になった見事な部屋の持ち主はいなかったでしょう。ティンクが“カウチ”と呼んでいたのは、棍棒型の足のついた、純正のクィーン・マブ様式のものでした。そしてティンクは、折々に咲いている果樹の花に合わせて、ベッド掛けを取り替えているのでした。彼女が使っている鏡は、鑿細工無しのプス・イン・ブーツ様式で、今はもう3台しかないと言われる、妖精の扱い業者だけが取り引きする貴重なものでした。洗面台はパイ・クラスト型で、両面が使用可能なものでした。箪笥は本物のチャーミング6世様式で、絨毯と敷物はマージェリー・アンド・ロビンの初期のもの、つまり最高の時代のものでした。部屋の見栄えのために、ティドリーウィンクスのシャンデリアを吊るしていましたが、勿論部屋を照らすのは、ティンク自身の光でした。当然、仕方のないことながら、ティンクは外の部屋のことを、とても馬鹿にしていました。そしてティンクの部屋は、とても美しいものではあったのですが、いつも鼻を聳やかしたような感じの、幾分気取った雰囲気を漂わせていたのでした。

 ティンカー・ベルの住む小部屋の様子を描写する際は、室内装飾に関連する様々な専門用語を駆使して、独特の文体を備えた記述となっている。このような文体の様式の変化は、この作品の仮構作品としての自意識性を顕著に反映するものである。後の様々な場面で、さらに変化に富んだ記述のスタイルが採用され、文体の選択が意図的に行われていることが分かる。

用語メモ
 recess:“奥まった処”が“recess”である。深い森の内奥の場合もあれば、この場面のように、部屋から繋がったもう一つの小さな空間、“alcove”の場合もある。
 boudoir:上流社会の夫人が、邸宅の中で居間として用いる私室。“深窓”あるいは、“閨房”とも訳す。
 exquisite:趣味が洗練されていて、繊細で優雅なこと。賞賛の気持ちを込めて用いる、含みの深い言葉である。





「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




00:00:00 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks