Archive for 04 February 2006

04 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 80


 In the midst of them, the blackest and largest in that dark setting, reclined James Hook, or as he wrote himself, Jas. Hook, of whom it is said he was the only man that the Sea-Cook feared. He lay at his ease in a rough chariot drawn and propelled by his men, and instead of a right hand he had the iron hook with which ever and anon he encouraged them to increase their pace. As dogs this terrible man treated and addressed them, and as dogs they obeyed him. In person he was cadaverous and blackavized, and his hair was dressed in long curls, which at a little distance looked like black candles, and gave a singularly threatening expression to his handsome countenance. His eyes were of the blue of the forget-me-not, and of a profound melancholy, save when he was plunging his hook into you, at which time two red spots appeared in them and lit them up horribly. In manner, something of the grand seigneur still clung to him, so that he even ripped you up with an air, and I have been told that he was a raconteur of repute. He was never more sinister than when he was most polite, which is probably the truest test of breeding; and the elegance of his diction, even when he was swearing, no less than the distinction of his demeanour, showed him one of a different cast from his crew. A man of indomitable courage, it was said that the only thing he shied at was the sight of his own blood, which was thick and of an unusual colour. In dress he somewhat aped the attire associated with the name of Charles II, having heard it said in some earlier period of his career that he bore a strange resemblance to the ill-fated Stuarts; and in his mouth he had a holder of his own contrivance which enabled him to smoke two cigars at once. But undoubtedly the grimmest part of him was his iron claw.
 Let us now kill a pirate, to show Hook's method. Skylights will do. As they pass, Skylights lurches clumsily against him, ruffling his lace collar; the hook shoots forth, there is a tearing sound and one screech, then the body is kicked aside, and the pirates pass on. He has not even taken the cigars from his mouth.
 Such is the terrible man against whom Peter Pan is pitted. Which will win?

 この無気味な風体をした輩の中でも、最も大柄でそして禍々しい姿の人物が、中央にゆったりと身を構えているジェイムズ・フック、あるいは彼が自ら署名する通りに従えば、“ジャス・フック”でした。クック船長さえもが唯一怖れたと言われている、あの男です。彼は今、手下の者達がかつぐ古代の二輪馬車のような輿に身を横たえているのでした。フックの右手の部分には鉄製の鉤爪が装着されており、時折これを振り回しては、速度を速めるように促すのでした。この恐ろしい男は手下の海賊達を犬のように扱い、また呼び掛け、そして手下の者達も犬のように彼の言葉に従うのです。フックの顔は死人のようにやつれて浅黒く、その髪は長い巻き毛になっていて、少し離れてみると黒いろうそくのように見えて、彼の整った顔つきに特別の恐ろしげな雰囲気を漂わせていました。フックの目は忘れな草のような淡い青色で、深い憂鬱を湛えていました。そして君の体にあの鉤爪を突きたてる時だけは赤い二つの光がその両目にあらわれ、ぞっとするような表情をみせるのでした。フックの仕種にはどこか血筋正しいお殿様を思わせるようなおごそかさがあって、人の体を切り裂く時でさえ、優雅な身のこなしに思えるのでした。そして私の耳にしたところですと、フックは面白い話をするのが上手だという評判だそうです。フックは慇懃きわまりない態度を示す時ほど無気味な感じのすることはなくて、それこそおそらく彼の生まれの良さを示す最上の証拠でしょう。そしてフックの言葉遣いの優雅さときたら、悪態をついている時でさえどことなく気品があり、立ち居振る舞いの品の良さとともに、彼が他の仲間達とは生まれの違う存在であることを示していました。フックは不屈の勇気の持ち主でした。フックを怯ませる唯一のものはフック自身の血だけで、それは普通の血の色とは違った、とても濃い色をしていたということでした。装いにはフックは時折チャ−ルズ2世の名を思い起こさせるものを選ぶことがあり、それは以前にフックの容貌が不運なスチュアート家の人々を彷彿とさせるものがあるという意見を聞いたことがあったからでした。そしてフックの口には特別に考案した、一度に二本の葉巻をふかすことができるパイプがくわえられているのでした。けれどもフックの一番恐ろしげなところといえば、それは疑いなく彼の腕に付いている鉄の鉤爪でした。
 フックのいつものやり方を見てみるために、一人海賊を殺してみることにしましょう。スカイライツがいいでしょう。歩いていく途中で、スカイライツはうっかりフックに体をぶつけて、フックのレースの襟を乱してしまいます。すかさず鉤爪が踊り出ます。皮膚の裂ける音と悲鳴が一つ、それから死体がころがされて、海賊達は過ぎ去ります。フックは口からパイプを放してさえいませんでした。
 ピーターが相手に選んだのは、このような恐ろしい男だったのです。果たして勝利を得るのはどちらか?

 いよいよ海賊達の首領であるフックに関する描写である。フックの目に浮かぶ憂鬱の表情は、彼の存在の秘密を解く鍵の一つとなる。フックについて語りを進める際にとりわけ作者の存在が強調され、物語世界そのものと語り手の及ぼす関与が微妙な様相を提示することになる。語り手は、記述上の都合のために、ここで実際に物語世界の進行に干渉を加え、仮構世界の中の登場人物の一人としての存在性向を明確に得るのである。しかし語り手はかなり恣意的にその権能の及ぶ範囲を操作し、自らのかたりつつある仮構世界に関わっていくことになる。

用語メモ
 chariot:ローマ時代に用いられた二輪の戦闘用馬車である。
 raconteur:(フランス語)物語の語り手。フックはピーターとは異なり、知識も芸術的センスも共に備えた教養人なのである。
 the sight of his own blood:血筋正しい貴族の血統のことを メblue bloodモ と呼ぶ。フックの場合はさらに独特の血の色を実際に有していることが暗示されている。フィクション世界ならではの、非現実性の独特の属性賦与がなされているのである。
ill-fated Stuarts:the House of Stuart、つまり Robert IIからJames VIに至るまでスコットランドを支配したスチュアート王家の人々を指す。James VIの時イングランドのJames Iとして両王国を支配することとなり、Anne女王の治世までスチュアート王家の統治は続いた。


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