Archive for 05 February 2006

05 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 81


 On the trail of the pirates, stealing noiselessly down the war-path, which is not visible to inexperienced eyes, come the redskins, every one of them with his eyes peeled. They carry tomahawks and knives, and their naked bodies gleam with paint and oil. Strung around them are scalps, of boys as well as of pirates, for these are the Piccaninny tribe, and not to be confused with the softer-hearted Delawares or the Hurons. In the van, on all fours, is Great Big Little Panther, a brave of so many scalps that in his present position they somewhat impede his progress. Bringing up the rear, the place of greatest danger, comes Tiger Lily, proudly erect, a princess in her own right. She is the most beautiful of dusky Dianas and the belle of the Piccaninnies, coquettish cold and amorous by turns; there is not a brave who would not have the wayward thing to wife, but she staves off the altar with a hatchet. Observe how they pass over fallen twigs without making the slightest noise. The only sound to be heard is their somewhat heavy breathing. The fact is that they are all a little fat just now after the heavy gorging, but in time they will work this off. For the moment, however, it constitutes their chief danger.
 The redskins disappear as they have come like shadows, and soon their place is taken by the beasts, a great and motley procession: lions, tigers, bears, and the innumerable smaller savage things that flee from them, for every kind of beast, and, more particularly, all the man-eaters, live cheek by jowl on the favoured island. Their tongues are hanging out, they are hungry to-night.
 When they have passed, comes the last figure of all, a gigantic crocodile. We shall see for whom she is looking presently.
 The crocodile passes, but soon the boys appear again, for the procession must continue indefinitely until one of the parties stops or changes its pace. Then quickly they will be on top of each other.

 海賊達の踏み跡をたどって、経験の浅いものの目には見分けることの出来ない戦いの道を音も立てずに忍び寄ってくるのは、一人残らず目を大きく見開いたインディアン達です。彼等はトマホークとナイフを携えています。露になった肌は、油を塗り、化粧を施して光っています。体の周囲には、殺した少年達や海賊達の頭の皮が結び留められています。彼等はピカニニー族なのです。温順なデラウェア族やヒューロン族とは違うのです。先頭を四つん這いになってやって来るのは、偉大なるリトル・パンサーです。あまりにも多くの頭皮を剥いだ勇者なので、その皮が歩くのに邪魔になる程です。最も危険な部位であるしんがりを努めるのは、生まれついての姫君、誇り高いタイガー・リリーです。赤い肌のダイアナ達の中で最も美しい、あだっぽいかと思えば冷たく、また情愛深くも変貌する、ピカニニー族随一の佳人です。この手強い女を妻に迎えたいと思わない勇者はいません。けれども彼女は、手斧を一振りして婚儀の祭壇を払いのけるのです。彼等がほんの僅かの物音も立てずに地面に落ちた小枝の上を歩いて行く様を、御覧になってみて下さい。聞こえる物音はと言えば、彼等のいくらか荒そうな呼吸の音だけです。実のところ彼等はたっぷりの食事をした直後で、少しばかり体が重たいのです。けれどもまもなく腹もこなれることでしょう。しかしながら現在のところこの事実が、彼等の差し迫った危険の要因となっているのです。
 インディアン達は、現れた時と同様に影のように姿を隠します。先程まで彼等がいた場所を今占めているのは、野獣達です。巨大な、様々の種類からなる一群です。ライオンや虎や熊や、そしてその前を逃げまどう無数のより小さな野生の生き物達からなっています。というのは、ありとあらゆる種類の野獣が、とりわけ人間を貪り食う類いのもの達はもらさず全て、この恵まれた島ではひしめき合っているからです。野獣達の舌は、口から垂れ下がっています。今宵は彼等は、空腹なのです。
 野獣達が通り過ぎると、一番最後にやって来るものの姿が見えてきます。それは、途轍も無い大きさの鰐なのです。この鰐が誰を探し求めているのかは、まもなく分かります。
 鰐が通り過ぎ、間もなく少年達が再び姿を現します。何故ならこの行列は、どれか一つの列隊が、歩みを止めるかあるいは進む早さを変えるかするまで、無際限に続かなければならないのです。そしてその時には彼等は、素早くお互いに襲いかかることでしょう。

 インディアン達は、殺害したロスト・ボーイズの頭皮を携帯している。ネバーランドにおける抗争の中で、子供達が実際に殺され、残酷な仕打ちを受けていることがここでも明言されている。ネバーランドは子供達の理想の世界であるから、彼らが望む限りのあらゆる危険と残酷が具現化しているのである。残虐行為が実際に言及されるのは、子供達の本性である粗暴さと身勝手さを語るためでもある。しかしながらこれらのおどろおどろしい凶悪な要素は、この物語の中で積極的に支持されるべき美学的条件ともなっている。『ピーターとウェンディ』は、子供達の羨望の的である残酷さが好んで描かれている、文部省推薦不可の有害図書なのである。だから語り手が物語を語り進める描写の言葉は、この辺りでも随時ロマン的な詩の語法にシフトしているのである。このお話は年少の子供達に読み取れるような言葉遣いで書かれている訳でもなく、また、その主題は、高踏的な教養を備えた人以外が理解できるような内容でもない。

用語メモ
 war-path:インディアンが用いる出征路。“on the war-path”で、“戦いに出かけるところ”の意となる。
 eyes peeled:“keep oneユs eyes peeled”で“警戒して目を大きく見開いて”
 dusky Dianas:“dusky”(浅黒い)は赤色人種(redskin)のインディアンを指す。Dianaはローマ神話の月の女神のダイアナ。狩りを好む勇敢な少女であった。
 motley:まだら。様々な種類の混合体。



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