Archive for 06 February 2006

06 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 82


 All are keeping a sharp look-out in front, but none suspects that the danger may be creeping up from behind. This shows how real the island was.
 The first to fall out of the moving circle was the boys. They flung themselves down on the sward, close to their underground home.
 "I do wish Peter would come back," every one of them said nervously, though in height and still more in breadth they were all larger than their captain.
 "I am the only one who is not afraid of the pirates," Slightly said, in the tone that prevented his being a general favourite; but perhaps some distant sound disturbed him, for he added hastily, "but I wish he would come back, and tell us whether he has heard anything more about Cinderella."
 They talked of Cinderella, and Tootles was confident that his mother must have been very like her.
 It was only in Peter's absence that they could speak of mothers, the subject being forbidden by him as silly.
 "All I remember about my mother," Nibs told them, "is that she often said to my father, 'Oh, how I wish I had a cheque-book of my own!' I don't know what a cheque-book is, but I should just love to give my mother one."
 While they talked they heard a distant sound. You or I, not being wild things of the woods, would have heard nothing, but they heard it, and it was the grim song:

"Yo ho, yo ho, the pirate life,
The flag o' skull and bones,
A merry hour, a hempen rope,
And hey for Davy Jones."

 At once the lost boys -- but where are they? They are no longer there. Rabbits could not have disappeared more quickly.

 すべての者達が、前方には警戒の目を向けています。でも、危険が後方から忍び寄ってこようとは、誰も思ってはいません。このことは、ネバーランドが確かに真実のものであることを示しています。
 最初に周回の動きを止めたのは、少年達でした。彼等は地下の隠れ家の近くで、草地の上に身を投げ出したのです。
 「ピーターが戻ってくれればいいな。」誰もが、落ち着かなさそうに言っていました。どの子も、身長も肩幅も、彼等の首領よりはずっと大きかったくせに。
 「僕は海賊を恐れることのない、ただ一人の少年だ。」スライトリーが、みんなに好かれるようには絶対になれない口調で言いました。でも、何か遠くの物音が彼を不安にさせたのでしょう。スライトリーは、口早に付け加えました。「でも、僕もピーターが帰って来てくれるといいと思うよ。シンデレラのことをもっと聞いて来てくれたか、知りたいな。」
 子供達は、シンデレラのことを話し合いました。そしてトゥートゥルズは、自分のお母さんは、きっとシンデレラにそっくりだったに違いない、と言いました。
 子供達がお母さんのことを話すことができたのは、ピーターがいない時だけでした。この話題はくだらないことだから、話してはならないと、ピーターによって禁じられていたのです。
 「お母さんのことで僕が覚えているのは、」ニブズはみんなに言いました。「お母さんがよくお父さんに、『私も自分の通帳を欲しいな。』って言っていたことだ。通帳って何だか知らないけれど、僕、お母さんに通帳あげたいな。」
 こんな話をしていると、遠くで何か物音がしました。あなたも私も、森の野生の生き物でないものには、きっと聞き取れなかったことでしょう。けれども、子供達の耳には聞こえたのです。それは恐ろしい歌声でした。

 ヨーホー。海賊暮らし、
  髑髏と骨の海賊旗、
 愉しい時間。麻のロープ、
  海の悪魔にご挨拶だ

途端にロスト・ボーイズ達は…でも彼等のいるのはどこでしょう?もうそこにはいません。うさぎだってこれほど素早く姿を消すことは出来なかったでしょう。

 物語の舞台であるこの島の“本物さ”(リアル)が強調されている。瑣末で矮小な現実(リアリティ)に反逆して、想像の世界の優位性を主張したのが類型的なロマン主義であるとするならば、確かにネバーランドは、徹頭徹尾リアルな夢の世界なのである。幻想を排した幻想の描き方に、アンチ・ファンタシーの戦略が効果的に適用されていることが分かる。
 お母さんを話題にすることをピーターが禁じている、というところにピーターとお母さんの間の敵対関係が暗示されている。これはこの後も何度か繰り返して語られることになる、ピーターの存在に関わる謎の一つである。

用語メモ
 Davy Jones:船員達の迷信で呼ばれる“海の悪魔”である。



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◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
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参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



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論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中




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