Archive for 08 February 2006

08 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 84


 The pirates disappeared among the trees, and in a moment their Captain and Smee were alone. Hook heaved a heavy sigh, and I know not why it was, perhaps it was because of the soft beauty of the evening, but there came over him a desire to confide to his faithful bo'sun the story of his life. He spoke long and earnestly, but what it was all about Smee, who was rather stupid, did not know in the least.
 Anon he caught the word Peter.
 "Most of all," Hook was saying passionately, "I want their captain, Peter Pan. 'Twas he cut off my arm." He brandished the hook threateningly. "I've waited long to shake his hand with this. Oh, I'll tear him!"
 "And yet," said Smee, "I have often heard you say that hook was worth a score of hands, for combing the hair and other homely uses."
 "Ay," the captain answered. "if I was a mother I would pray to have my children born with this instead of that," and he cast a look of pride upon his iron hand and one of scorn upon the other. Then again he frowned.
 "Peter flung my arm," he said, wincing, "to a crocodile that happened to be passing by."
 "I have often," said Smee, "noticed your strange dread of crocodiles."
 "Not of crocodiles," Hook corrected him, "but of that one crocodile." He lowered his voice. "It liked my arm so much, Smee, that it has followed me ever since, from sea to sea and from land to land, licking its lips for the rest of me."
 "In a way," said Smee, "it's sort of a compliment."
 "I want no such compliments," Hook barked petulantly. "I want Peter Pan, who first gave the brute its taste for me."

 海賊達は木々の間に姿を消し、一瞬の間にフックとスミーは二人きりになりました。フックは深い溜息をつきました。一体どうしたというのでしょう。ひょっとしたらそれは、宵の情景の穏やかな美しさのためだったかもしれません。けれどもフックは、忠実な水夫長に自らの過去を打ち明けてみたいという思いにかられたのでした。フックは長い間、心を開いて語り続けました。しかし彼の語ったことがいかなる意味を持つものであったのか、いささか鈍重なところのあるスミーには、何一つ理解できなかったのです。
 話を聞くうちに、スミーはピーターという名前に耳を引かれました。
 「誰にもまして、」フックは勢い込んで話しているのでした。「奴らの首領のピーター・パンを捕らえてやりたいんだ。俺の腕を切り落としたのが奴だ。」フックは脅しつけるように鉤爪を振り回しました。「これで奴と握手してやる機会を、ずっと窺ってきたんだ。引き裂いてくれよう。」
 「でも親分。」スミーが言うのでした。「あんたはいつも、鉤爪は普通の手20本分の価値があるって言ってたんじゃありませんか。髪をとかしたり、色んなことに役立つって。」
 「そうだ。」親分は答えました。「もしも俺が母親だったら、自分の子供があれじゃなくてこれを付けて生まれて来るように祈るさ。」こう言ってフックは、誇りに満ちた目を鉤爪の方に向け、それから軽蔑の眼差しをもう一方に向けました。それからまたフックは顔をしかめたのです。
 「ピーターの奴は、俺の腕を投げ出したんだ。」フックは少し怯んだ様子で続けました。「丁度そこに通りかかった鰐の前にな。」
 「そう言えば親分は、何故かいつも鰐を怖れてますな。」スミーが言いました。
 「鰐がみんな恐ろしい訳じゃない。」フックは訂正しました。「ある一匹の鰐だけだ。」ここでフックは、声を落としました。「あの鰐は俺の手をとても気に入ったので、それ以来俺の後を追い続けているんだ。残りの部分を食いたくて、舌なめずりをしながら海も陸地も追い回すのさ。」
 「それはひょっとして、お愛想の一種かもしれませんな。」スミーが言いました。
 「そんなお愛想は真っ平だ。苦々しそうにフックは怒鳴りました。「ピーター・パンを捕まえてやる。あの怪物に、俺の手の味を教えたのは奴だ。」

 自分勝手で薄情な子供達や無知で粗野な海賊達と比して、感性の豊かさが語られているのはフックに関してのみである。共感に値する思いや疑念やそして偏執的な憎しみさえも、知的な読者と共有すべきものを保持しているのは、フックなのである。
 フックの体の一部を飲み込んだ鰐は、あたかも主人との合一を望む影のようにフックの後に付き従う。様々な影の主題の変奏パターンの一つである。

用語メモ
 heaved a sigh:反省や後悔や疑念や、その他もろもろの生の憂愁に取り憑かれて、そしてまた風景の美しさに心を奪われて、フックは溜息をつくのである。




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