Archive for 09 February 2006

09 February

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 85


 He sat down on a large mushroom, and now there was a quiver in his voice. "Smee," he said huskily, "that crocodile would have had me before this, but by a lucky chance it swallowed a clock which goes tick tick inside it, and so before it can reach me I hear the tick and bolt." He laughed, but in a hollow way.
 "Some day," said Smee, "the clock will run down, and then he'll get you."
 Hook wetted his dry lips. "Ay," he said, "that's the fear that haunts me."
 Since sitting down he had felt curiously warm. "Smee," he said, "this seat is hot." He jumped up. "Odds bobs, hammer and tongs I'm burning."
 They examined the mushroom, which was of a size and solidity unknown on the mainland; they tried to pull it up, and it came away at once in their hands, for it had no root. Stranger still, smoke began at once to ascend. The pirates looked at each other. "A chimney!" they both exclaimed.
 They had indeed discovered the chimney of the home under the ground. It was the custom of the boys to stop it with a mushroom when enemies were in the neighbourhood.
 Not only smoke came out of it. There came also children's voices, for so safe did the boys feel in their hiding-place that they were gaily chattering. The pirates listened grimly, and then replaced the mushroom. They looked around them and noted the holes in the seven trees.
 "Did you hear them say Peter Pan's from home?" Smee whispered, fidgeting with Johnny Corkscrew.
 Hook nodded. He stood for a long time lost in thought, and at last a curdling smile lit up his swarthy face. Smee had been waiting for it. "Unrip your plan, captain," he cried eagerly.

 フックは、大きなキノコの上に腰を降ろしました。そして声を震わせながら言うのでした。「スミー、おれはもうあの鰐に食われてしまっていたかもしれない。」かすれた声で続けました。「だが運のいいことに、奴は時計を呑み込んで、その時計が腹の中で音を立てるんだ。だから俺は、奴が近付く前に時計の音を聞きつけて、逃げ出すのだ。」フックは笑い声をあげましたが、その声はうつろでした。
 「いつかそのうち、」スミーが言いました。「時計のねじが切れて、奴はあんたを捕まえる。」
 フックは唇を舌で湿して言いました。「たぶんな。その恐怖が俺を捕らえて離さないのだ。」
 腰を降ろしてから、フックは奇妙に暖かいのが気になっていました。「スミー、このキノコは熱いぞ。」フックは飛び上がりました。「何だこれは、やけどをしそうじゃないか。」
 フックとスミーは、キノコをよく調べてみました。それは本国では見たことのないような大きさと堅さのものです。引っ張ってみると、簡単に抜けてしまいました。根っこなど付いていなかったのです。さらに奇妙なことには、煙が立ち上り始めたのです。海賊達は顔を見合わせました。「煙突だ!」二人は声を揃えて叫びました。
 二人は、子供達の地下の隠れ家の煙突を発見してしまったのです。子供達は敵が近辺にやって来た時には、この煙突にキノコでふたをすることにしていたのでした。
 出て来たのは煙だけではありません。子供達の声まで聞こえて来ました。子供達はこの隠れ家にいれば安全だと信じきっていて、楽しそうにおしゃべりをしていたのです。海賊達はむっつりとこの声に耳を傾け、それからまたキノコをもとに戻しました。彼等は周囲を見回し、7本の木に穴が空いているのに気付きました。
 「奴らは、ピーター・パンは出かけていると言ってましたな。」ジョニー・コークスクリューをまさぐりながら、スミーが言いました。
 フックは、うなづきました。そしてフックは立ち尽くしたまま、長い間考え込んでいました。それからぞっとするような微笑みが彼の浅黒い顔を照らし出したのです。スミーが待っていたのはこれでした。「どんな計画です?親分。」待ちきれない様子で尋ねました。

 時を刻む時計の音は、フックの内省の念が蒸し返す良心の鼓動の響きでもあるかのようだ。フックは怯える心を手下のスミーに隠そうともしない。フックの真の敵は自分自身なのである。

用語メモ
 tick:時計の立てる“カチカチ”という音が“tick, tick”である。これに呼応して、心の内側からフックの胸を叩くような執拗な内省の声が、“tap, tap”(トントン)と記されていた。





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